第19話 帰還

 ウェアウルフを討伐した三人はそのままの足でギルドへ向かっていた。

 結局、ルイのヘルプに入ったときライトとミカは取り巻きの狼を倒してしまっていた。しかし、ウェアウルフと対峙しているルイの援護に入るタイミングを計りかねていたらしい。二人にとって、第三者と共闘するのは初めての経験だった。


 倒したウェアウルフの牙や爪を拝借し、ついでに狼たちの一部も持って帰る。これがないと達成報告ができない。持ち運び用の鞄を持っていなかった三人は、帰るのに少し苦労したが、それよりも依頼をすぐに終わらせられた喜びの方が、亜人組は優っているらしい。


「話には聞いてたけどよ、お前の戦い方どうなってんだよ……」

「な?な?こいつすげえだろ!」

「いやぁ……なんなんでしょう」


 ライトが奇異な目でルイを見る。褒められているのか、そんなことはない気がするが、ミカはまるで自分が褒められているように嬉しそうにしていた。

 ルイ自身、自分の戦い方を完全に理解できているわけではない。無我夢中で、こうしないとまずい、と思ったことを何とか体が対応してくれているだけなのだ。それがたまたま上手くいって、たまたま間違いを選択していないだけの話だ。もし、尻尾を掴んでも力負けしたり、すぐに反撃に出られていたら結果は違っていたかもしれないし、背中を抉られたときに抉られたのが背中ではなく心臓だったら。

 考えていても仕方がない。

 興奮する二人と不安が残るルイ。足並みはまだばらばらだった。


 ギルドに到着した途端、三人を見た討伐者がざわつき始めた。

「なんだあの量は」

「見たことないぞあのパーティー」

 口々にそんなことを言っている。確かに、三人とも抱えるようにして素材を持っている。こんな持ち込み方をしている討伐者は一度も見たことがない。なんだか変な目立ち方をしている気がする。


「これどこに持っていけばいいんだ?」

「えっと……多分、受付じゃないかと」

「うし、じゃあさっさと行くぞ」


 二人が歩き出す。ルイは後ろから早歩きでついていく。受付に近づいていくと、受付係のお姉さんの張り付いた笑顔が引き攣っていくのが分かった。


「こ、こちらどうぞ~……」


 お姉さんがルイ達を呼ぶ。ライトとミカはどさりと素材をテーブルの上に置いた。「重かった~」と肩を回している。ルイはなんとなく申し訳ない気がして、自分の足元に素材を置いておくことにした。


「ルイ様、ライト様、ミカ様のパーティーですね。おかえりなさいませ。受けて頂いていた依頼はウェアウルフの討伐でしたよね……この素材の量は一体……」

「あ、そのウェアウルフが狼たちを従えていて、ついでにその狼たちの素材も持って帰ってみたんですけど……」


 お姉さんの表情がどんどん引き攣っていく。これは、ウェアウルフの素材だけ持って帰るのが正解だったのかもしれない。申し訳ないことをしてしまった。


「すいません……狼の素材は何とかしますので――」

「狼を従えたウェアウルフを討伐されたのですか⁉」


 いつも笑顔を崩さない仕事人のイメージを持っていた受付係が初めて笑顔を崩した。大声を出し、あたりの視線が四人に集まる。突然のことに亜人組も驚いて静止していた。


「あ、も、申し訳ありません! 突然大声を……」

「あの、何かまずいことでもしてしまいましたか?」

「いえ、ルイ様方が受注された依頼はCランクでした。それはウェアウルフ単体の討伐で、Cランクです。しかし、ウェアウルフの中には稀に狼を従える賢い個体がいます。その討伐はBランクに相当するのです……それをこんな短時間に終えてしまうなんて」


 本当に驚いた顔をしている。どうやらまずいことをしたわけではなさそうだ。


「なあなあ。それってすごいことなのか?」


 ミカが分からないといったように尋ねる。


「すごいなんてものじゃありません。初めての依頼で、しかも短時間で一つ上のランクの依頼を達成してしまうなんて……」

「それじゃあよぉ――」


 そんな二人に近づく悪い顔をしたライト。何となく何が起こるのかが想像できたルイはこっそり二歩後ろに下がる。


「報酬、弾んでもらわねぇとなぁ……?」

「お?」

「え、っとー……すぐに上の者に確認をとるのでしばらくお待ちください……!」


 お姉さんが走ってどこかへ行ってしまった。恐らく、走っていった方向からしてギルド長のところだろう。

 三人で少し待っていると、走っていった方向からギルド長の叫び声が聞こえた。なんと言ったかよくわからないが、とにかく驚いているのは分かった。

 三人で驚いていると、すぐにお姉さんが走って戻ってきた。


「ぎ、ギルド長がお待ちです。こちらへお越しください!」

「あの、素材は……」

「そのままで結構です!」


 お姉さんはそれだけ言うと足早に歩き出した。


「なんだかおもしろくなってきたな、おい」


 ライトが後ろからルイの肩を叩く。おもしろい?おもしろいのだろうか。ルイには不安の方が強かった。


「な~、おい!」


 ミカがライトの真似をしてルイの腰あたりを叩く。


「そ、そうですね……」


 とにかくルイたち三人はお姉さんについていく。

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順応性高い系男子の放浪記 天樹奈々 @telmey

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