30分でネタ作りとか出来るワケねぇから即興で漫才やります、な話

胡蝶花流 道反

第1話

「あ~、もう5分前だ、ヤバいヤバいヤバい…」

「ここまできたら腹くくるしかねぇよ、眞智まさと

「いや俺、今はレオンだから。くれぐれも名前、間違えんなよ」

「うわ~絶対間違えるって!ホント、始めから無理な話だったんだよ!」

 今、俺の横にいる奴は、レオンレオンレオン…って、なんで眞智コイツがレオンなんだよぉ!

「よし、腹くくった。行くぞ出番だ、タゴサク!」

 で、どうして俺がタゴサクなんだ?



 久し振りに舞台に立つのは、物凄く緊張する。いや、今は緊張どころではない。訳ありで、急に代役…と言うよりも替玉的な事をやらされる羽目になったのだ。しかも、その話を聞いたのは1時間前。

 取り敢えず大学時代のサークルで組んでいた幼馴染でもある相方と、何年か振りに漫才をやらねばならないのだが、ミーティング時間がたった30分しか無かった。昔やっていたネタも多少は覚えてはいる…しかし、埃を被りまくった古臭い物ばかりで、使い物にならなかった。

 勿論それっぽっちの時間で新ネタが作れる訳も無く、ぶっつけ本番より酷い『やっつけ行き当たりばったり』で臨むこととなった…


「「はい、皆さんこんにちはー」」

「レオンでーす」

「タゴサクでーす」

「「二人合わせてシュバルツシュバインでーす!」」

「って、黒ブタやないか~い」

 いや、マジでなんだよ、このコンビ名…絶対、クーゲルシュライバーとどっちにするか迷っただろ!

「タゴサクさん、突っ込みベタ過ぎ!もっとひねって!」

「おい、突っ込みにダメ出しするなよ、俺の立場ねぇじゃんかよ!」

 ほら、観客だって呆れ返って…いや、なんか慈愛の眼差で生温なまぬるく微笑んでる…侮蔑を通り越して、諦観の域に達してるのか!?

「まあ話は変わるけど、最近のニュースで気になる事あった?」

 こう何か、オーソドックスな話題でも振ってやれば、どうにか繋げてくれるだろう。

「う~んそうだなぁ。未だにウイルスの脅威で、大なり小なり行動制限かかっているじゃあないですか。やっぱさ、病気にはかかりたくないですよね~」

 よし、そのまま突っ込みを入れられるよう、ボケてくれ!

「あ、病気と言えばですね~ウチの相方が小学生の時、体調悪いのに給食のシチューが食いたい一心で無理矢理登校して、がっつり給食食って気分悪くなって、よりによって先生の食い終わった皿にゲロ吐いて、まぁ見た目はシチュー復活しとるやんって…」

「ごrrrるぁーーーミーティングの時、その話絶対使うなっつっただろうがーーー!!!」

「ごめんごめん、他にネタが浮かばなくてさ~ネタ考えている時にこの話題出たじゃん?で、駄目だって念押しされたけど、もうこの話ばっか頭に浮かんでさぁ…」

 確かに30分ぽっちの時間では、まともなネタ作りどころではなかった。が、わざわざ1番使っては駄目なヤツを排出するこたぁ、ねぇだろう。

「人の古傷とか黒歴史とかトラウマとか、無闇矢鱈にいじっちゃあいけないだろ。昨今ではそういうの、ハラスメントで訴えられるんだぞ!」

「マジすまんって。あ、トラウマってさ、小さい頃は『虎と馬が、どうしたっていうんだろ?』って、意味不明な言葉だったよな。オショクジケンとかカレーシュウとかショウシタイシュジュツとか、勘違いしてたなあ」

「おい、最後の物騒な単語は何だ?」

「硝子体手術を焼死体手術だと思ってたんだよ、お前硝子体手術知らんのか?もう~、これだからタゴサクはタゴサクなんだよ」

「変なディスり方すんな!小さい頃の勘違いと言えば、お前の小学校の音楽のテスト!」

「おい、やめろ……」

「『ふるさと』の歌詞についての記述で、『うさぎ追いし』を『うさぎ美味し』って思ってたヤツは普通にいたが、『忘れ難き』を『忘れ仇』と勘違いして『ふるさととは、斯くも哀切に満ちた場所なのだろうか』とか回答かましてたなぁ。先生それ見て、白目剥いて呼吸困難になるレベルで笑ってたぞ、眞智」

「おおおお、お前間違えんなよぉ、俺は今、れ"お"ん"な"ん"だよぉぉぉぉぉぉぉーーー!!!」

 怒るとこ、そっちかよ…



「「お疲れ様でしたー」」

 なんとか無事に演目を終えて、声を掛けてきた主催者に挨拶した。

「お疲れ様、急な呼び出しで悪かったね」

「いえいえ、こちらこそ力不足で」

「気にしなくていいよ、こちらとしては穴埋めさえして貰えたらそれでいいから」

 まぁ、途中から頭の悪い高校生のやり取りと化してしまって、面目ない。

「あいつら、直前になって逃げやがって、企画書通りに興行しないと信用にかかわるからさ、本当に助かったよ。ところで君ら、これからもシュバルツシュバインでやっていかないか?」

「「お断りします」」

 そうやって声を掛けてくれるという事は、多少の需要はあるのかと、ちょっと嬉しかったり。

「あの、名前間違えて怒るとこ、良かったよ!」

 え、評価されるとこ、そこなの……



 もう、さっさと帰ろうと出口に向かった時、次の出番の名前が呼ばれた。

「はい、お次は『クーゲルシュライバー』のお二人でーす!」

 そっちもいるのかよ!!!

 

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30分でネタ作りとか出来るワケねぇから即興で漫才やります、な話 胡蝶花流 道反 @shaga-dh

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