いつかきっと無くなる目
ギヨラリョーコ
第1話
「姫ちゃんまだ退化してないんだぁ」
小学校6年生の冬、ユカちゃんがぴん、と私のおでこをデコピンしようとする。
おでこそのものの痛みより先に、おでこの真ん中にある第3の目が指先の接近を感じてしゅわしゅわとした。
第3の目は第六感を司っている、らしい。かくれんぼで鬼の時にしゅわしゅわして「誰かが近くにいるな」って分かるくらいにしか役に立たない気がする。
それに成長につれて退化し、おでこに埋没して無くなるものなのだ。小学校に入学した時はみんなおでこに第3の目があったのに、6年生ともなると、クラス30人で5、6人しか残っていない。
鏡で見ると、1個目2個目の目とは違って、真っ黒でつるっとして少し出っぱっている。撫でても皮膚と違って撫でられてるなっていう感触は無くて、第六感のしゅわしゅわしか感じない。
このしゅわしゅわは第3の目が退化すると感じなくなるらしい。お父さんもお母さんも「もう忘れちゃったなあ」と言った。
昔の人類には第3の目は無かったらしい。お父さんは、「子供が安全に育つように人間が進化したんじゃないか」と言っていた。
私の目は、結局中学3年生になってもまだ退化せずにおでこに残っていた。
私は前髪を重たく伸ばして、第3の目を隠すようになった。いじめられることはなかったけど、なんとなく周囲に気を遣われている気がして、次第に周りと距離を置き出した。
第3の目が残っているのは、もうクラスどころか学年にも私ひとりだけになっていた。
冬の日、ひとりで屋上でお弁当を食べていると、第3の目がいつになく強くしゅわしゅわとした。
上から、何かが近づいている。
空を見上げると、大きな、大きな円盤がそこに浮いていた。
チカチカと光るそれに反応して、しゅわしゅわの感覚が眩暈がするほど強くなった瞬間。
べり、と私の第3の目が剥がれて浮いた。
まるで小さな円盤のようにふわふわと宙に浮き、捕まえようとした私の手をすり抜けて、上空の大きな大きな円盤の元へと飛んでいった。
地面の方から悲鳴が聞こえて、屋上から校庭を見下ろしてみると、校庭にいた生徒たちのおでこを突き破って、埋まっていたはずの第3の目が次々に飛び出していくところだった。
校庭から、街から、無数の小さな円盤が大きな円盤の元に集まっていく。
私は混乱していたけど、ちょっと気味がいいと思った。
あれは結局、進化でも退化でも、そもそも私たちのものでもなかったのだ。
なぁんだ。
いつかきっと無くなる目 ギヨラリョーコ @sengoku00dr
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます