個人差

夏生 夕

第1話

え。

んー?甘いものは特別好きってわけじゃないかな。

そりゃ美味しいものは食べたいし、見た目かわいいカラフルなものには惹かれるよ。でも甘党ってことじゃない。

必要だから摂取してるだけ。そう、必要。

なんなのかしらね。多分、ふつう使わないようなとこ働いてんじゃない。脳の、なんか知らないとこ。

誰かと話した後、頭の右側らへんが凝り固まってる気さえする。

だから必要以上に気を張ってんのね。肩まで凝ってきちゃって。顔も怖いって言われる。

こっちからすれば、あんたらの方が怖いよって思う。外面ではいい表情つくって、内側ではほんと、何考えてるか分かったもんじゃないよね。

・・・いや、そう。それが勝手に頭に浮かんで、分かっちゃうから気味悪がられるんだけど。

物心ついた時にはもう、そうだった。

言っちゃダメなこともあるのに、当然そんなこと考えずにさ。


あの人、嘘ついたよ。

あの人、本当はあなたのこと嫌ってる。

あの人、笑ってたけど怒ってたよ。


なんで皆わかんないのって思ってた。あと外面と内面、違いすぎない?

顔色なのか、目の動きなのか。口元引きつってるとか?きっとその全部なのね。その全部が一気に目に入るの。見てるって言うか、感じ取ってるって言えばいいのかな。上手く表現はできない。

皆からすれば逆ってことなんだろうけど、なんで皆、分かんないの。不思議。


会話が終わってどっと疲れて、頭と肩カチコチで、もんのすごく甘いものが欲しくなる。

小さい頃は家が厳しくてお菓子なんて大してもらえないし、思春期には太るからって控えてた。

でも頻繁に倒れてた。覚えてるでしょ、授業中とかよく保健室行ってたからさ。

貧血かと思ってたら、低血糖ですって。笑っちゃうよね。どんだけ燃費悪い使い方なのよ、頭。

その点あんたと話すのは楽だった、ずっと。

全部、ぜーんぶハッキリ顔に出てるから。

それだけの反応示されたら、わざわざ細かく追う必要ないんでしょうね。思いっきり目も頭も休んでるわ。


そういえば、この間。

東京へ行くって話してたじゃない。好きな作家さんのね、サイン会って。

そう、その野々宮先生。あんた結構わたしのブログ読んでるよね・・・。

野々宮先生。あの人と話してても楽だった。楽だったというか、疲れなかったの。

ゆっくり、感情が変化する人。忙しなく目で追うことが無かったからなのかな。

先生の作品そのままの人だと思った。

初めて読んだのが『不器用』だったんだけど、その主人公みたい。確かに不器用そうではあったかな。だから裏表が無いのかも。

遠出して正解。

好きなもののために好きなだけお金と時間を使うって最高よね。

好きなことを好きなままでいていいんだって再確認するための儀式よね。


そう考えると、やっぱりわたしは甘いものが特別好きってわけじゃない。どうせ摂らなきゃならないなら自分により合ったものを記録したくてブログに残してるだけだし、その広告収入も無ければ、そこにばっかりお金はかけたくない。

なのに甘いものは欲しくなる。まったく困ったもんだわ。


でも、あんたと先生は信用してもいいかなって気づけたし、この第六感めいたものも悪くないのかも。


うん。

だからこの焼き菓子は嬉しいからもらっとく。ありがとね。

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