第六感が結ぶのはアホでマッドなギャルと筋肉ダルマの幼馴染と…

鱗青

第六感が結ぶのはアホでマッドなギャルと筋肉ダルマの幼馴染と…

 天高く鶯の鳴く長閑な昼休み。あーしはスカートがめくれないよう手で押さえながら高校の中庭でしゃがみ込み、徒然なるままに蟻の巣にヨダレ爆弾を投下したりなどしていた。

 と、土の上に巨大な影が広がる。振り向けばそこに浅草寺の雷門から抜け出てきたようなマッチョが腕組みをしていた。まさに仁王立ちってやつ。

「あによ阿吽あうん。何か用」

「用事でもなけりゃお前みたいなイカれ女に声かけねえよ。いいから屋上に来い」

「え──それって、待って、待つのよ、ムードを作りなさいよ、そりゃ私とお前は幼馴染で隣同士でイトコ同士だけどホラ」

「勘違いすんな、オラ!」

 あーれ〜お助け〜。雰囲気を出しながら身をくねらせる私をラグビー部FWフォワード所属の阿吽はうざったそうに連行。

 そして人気ひとけのない(寒いから)屋上に上がるや何故か鍵を閉めた。

「な…お前まさか本気で私を」

「いいからコイツを見てくれ」

 シリアスな私を壁際に追い詰めて、阿吽は制服のズボンのチャックに太い指をかけた。

「イヤお前マジで何する気なの⁉︎」

「相談」

「オープンエアな密室(?)で⁉︎社会の窓を開けながら⁉︎」

「俺だって本来病院行ったがいいかなとか考えたよ!でも万が一ヤベぇモンで実験されたら嫌だろが!だから仕方なくお前に頼んでるんだよ‼︎」

 どうやら恋愛的なものではないらしい…まぁ普段から部活帰りに毎日大蒜ラーメンとか牛丼食ってて、女っ気どころか母親と私以外にXY染色体を持つ生物と会話する事がない(できない)奴だが、とにかく人柄だけは保証できる。

「私を見込んで、って事か。イイ女は辛いわね」

「見込んでというか諦めかな」

「…お前の中での私の立場ポジションとは」

「ギャルの皮を被ったテロリスト」

 ここで私の華麗な膝乗りキックシャイニングウインドが阿吽の鼻面を直撃。

「話だけは聞いてやるから有難く思え。人の皮を被ったゴリラが」

 オゴフ、とえげつない鼻血を噴きながら阿吽は頷いた。

「俺のピーが変なんだ」

Pardonパルドン?」

「ムカつくゲス顔するな。見る方が早いからな、いくぞ!」

「お、おう、ナメんな!こちとら親の顔もといお祖父ちゃんの顔くらいには見慣れてんだよお前のピーなんか」

 覚悟完了、バッチこい!阿吽がファスナーを下ろしてブツを出す。

「うむむ流石によくお育ちで…小学生の時とは違うわね」

「評論するな。そこじゃねえよ」

 その辺に転がっていた割り箸でつまんでみた。 まじまじ観察すれば、その異常は

「これは…⁉︎」

 確かにおかしい。うっすらと。光度は日光の下でやや判るくらいだから…約60lxルクスといったところか。

「一体いつから?常に光るのか?時間や場所に関係するか?他に伴う現象はあるか?」

 阿吽によると、先月から前触れもなく発光が始まったのだという。ある晩ふと自室で就寝前に気づき、それからは常に光り続けているそうだ。

「成程。一つ確実な点がある」

「何だ⁉︎」

「お前その時、オナ×ヌフフしようとしてたんだろ」

「どっどどうでもいいだろ‼︎」

「図星か…しかし惜しかったね」

「何が」

「年末だったら東京ミチテラスに参加できたかも知れないのに…」

「お前は俺をカップルどもがそぞろ歩きするオシャレスポットで股間を晒す存在に貶めたいのか?」

「てかラグ部の連中に相談しなかったの?私と違って同性の友達ワンサカ居るでしょ」

ヤローに相談するのはプライドが許さん。絶対ネタにされるしな。女の子に見せるなんて論外だろ。消去法でお前に行き着いた」

「ちょいちょい私の女としての尊厳に抵触してくるね…」

「関係あるかは知らんが、そういえば時々熱くなる感じがあるな」

「ほうほう。その時間と場所をできるだけ詳しく思い出せるか?」

 私はポケットからちいかわの手帳を取出して目まぐるしい速さでメモと計算式を書き殴る。

「私の結論を言おう」

 喉仏を上下させて唾を飲む阿吽。

「これはお前に備わった超感覚である可能性が高い。ある種の生物は発光器を持つ。烏賊とか蛍とか有名だよな。ハイ質問して」

「お、俺のピーがなんで?」

 私はカッ!と効果音をつけて言い切る。

「生殖つまり

「お前それが言いたいだけだろ」

「まあまあ。烏賊は威嚇や目眩めくらましの意味もあるらしいけどね…そんでここからが本論なんだけど、お前のピーの光りかた、強弱が無いとか四六時中とかを合わせると…単なる効果器じゃない気がする」

先生せんせー、本論が難しすぎます」

「つまり発光現象は副産物で、むしろ熱感の方が主体なんじゃないか?これはお前という個体に表出した変異、人類にこれまで存在しなかった感覚器である可能性が高い。いわば異性を感知するレーダー、赤い糸で結ばれた相手をゲットする為の第六感というわけだ!」

 第六感。或いは超能力。地球上の全人類(の男)の中で阿吽にだけ備わり余人には無いというのなら、これはもう立派なESPといえる。

「私はこれを或いは大性感セックスセンスと名付けたい。論文にして学会に提出…」

「ちょ待てよ、何の根拠があって人をそんな変質者みたいに」

「だってお前三日に一度は彼女欲しいってボヤくじゃん」

「うっ」

「年がら年中ラグ部の男どもとつるんでばっか、臭くて野蛮で女扱いに慣れてなくてぇ」

「ううっ」

「あとトドメに童⬜︎トホホだろ」

「どっどどどど⬜︎トホホ貞とは限んねえだろ!」

「見栄張るな。この私にはお前の女旱おんなひでりなんざお見通しなんだよ!そんなお前に宿った股間の感覚と発光現象。これが異性獲得の為でなくてなんだと⁉︎」

 予断と偏見による断定である。がっくり項垂うなだれた阿吽の分厚い肩に優しく手を置き。

「考えようによっては天が与えた一縷いちるの希望じゃないか。お前がくれたデータと私の頭脳。それにお前自身の股感こかんがあればな?本能の指し示す相手に出逢える筈じゃないか」

 阿吽がハッと我に返る。

「つまりこれ…この俺のピーに従えば彼女ができるって事だな⁉︎」

 私は頷く。この上なく腹黒い笑顔で。

「一応聞いとくがよ、お前にとって俺の存在って何だ?」

「壊れない玩具」

 

「あ〜痛って…お前さぁイトコとはいえ曲がりなりにも女の後頭部に拳骨ってどうなのよ?」

おぞましくも血が繋がってる生物的な女だからその程度にしてやったんだ。調子に乗るなこのテロリスト」

 放課後である。帰宅部の私と練習をサボった阿吽は秋葉原駅にいた。熱感の強くなるのが電車通学時、かつ駅間が山手線の池袋〜神田というのでざっくりと対象者がこの辺に居るものと仮定した。とにかく後は出たとこ勝負、熱感が無ければ他所へ移る。それを繰り返していくだけ。

「確かに駅に降りると熱さが強まるぜ」

「そうか。じゃあ電気街口に出てみよう」

 舗装された歩道に出た途端、阿吽が妙な声を出してうずくまる。

「来た…物凄ぇ熱い!ジンジンくる」

 近くに相手が居る?平日夕方でも人波が多く、行き交う様々な服装に(場所が場所なだけにコスプレも多い)目が追いつかず判別が困難だ…

 と、少し離れた場所から悲鳴が聞こえた。ビルに挟まれた隙間のような路地で、あからさまに巫女コスプレの内ハネ黒髪のゆるふわ美少女が大柄なオタク外国人に絡まれている。どうやらツーショット写真を強引にせがまれているらしい。

「あ〜あ、痛い痛い。ああいうのホント困るよね言葉通じないし…」

 ビュンッ。顔の横に風を感じた。覚醒した超人のように赤眼を光らせた阿吽が、美少女のピンチに躊躇なくタックルをかましに行ったのだ。流石さすがラガーメン。

 外国人は自分よりも筋骨隆々の男子高校生にビビり散らかして退散していった。私も(自分の安全を確信してから)駆け寄り、ゆる巫女が取り落とした肩下げ鞄を拾って渡してあげた。

「あ、お気遣い有難うございます」

 ゆる巫女は近くで見ると女の私でも庇護欲をかき立てられる雰囲気を持っていた。眉は笹型、鼻も唇もぽっちりと可愛い。潤んだ大きな瞳は吸い込まれそうな程澄んでいる。

「あの、貴方も。血が…」

 たおやかな手でハンカチを取出して阿吽の擦り剥いた腕に当てる。

「フハッ」

 股間だけでなく顔まで赤く発光させて阿吽が鼻息を噴き出す。

 一目惚れしたのは火を見るより明らかだ。

 というか三白眼を♡にして鼻の下を伸ばして口は半開き、三月上旬の陽気の中で頭から陽炎が立つほど赤面している男の何をどう見たらそれ以外だと思うのか。罷り間違ってもフォーリンラブ、それ以上ならウエディング。

「あ、あの、君、名前は?学校どこ?あ、俺阿吽っていうんだけど良かったら友達から末長くよろしく付き合って下さい‼︎」

「え、私と?」

 戸惑うゆる巫女は地球を砕くサイヤ人のような阿吽の迫力に押されて頷く。阿吽は両腕を脇に締めてよっしゃ、よっしゃ!と叫び出し…

(良かったね…阿吽。本当に)

 私は慈愛ある微笑。

 何故ならある真実を知っていたから。ゆる巫女のバッグの中身を覗いてしまっていたから。

 突っ込んであったのは詰襟と学帽。色は黒。まごかたなき男子の制服学ラン。勿論コスプレ用なんかじゃない。

 股感が反応していた線上の地点ポイントには池袋・上野があり、更にここは秋葉原。これは『』にまつわる者ならば「あっ、もしかして?」と黒ベタ背景バックに光線が走る演出だ。

 つまりそういう事。

 このゆる巫女は男。

 否、正確に言おう、だ。

(阿吽、お前はどこまでいっても私の玩具。…そう囁くのよ、私の第六感ゴーストが)

 かたや、美少女と見紛うゆる巫女な男の娘。片や山門から抜け出した力士像さながらの純情硬派のマッチョ。これは掛け算の左右がどちらでも美味しく頂ける案件。

 地獄の底から這い上がるような私の笑い声にも気付かず、会心の電撃告白で彼女をゲットできたと思い込んだ阿吽は、いつまでもゆる巫女の手を握り締めていた。

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