刑事の勘

キザなRye

第1話

 「被害者は馬場絵美さん、29歳。こちらにいる友人三人と旅行中だったそうです。」

「死因は?」

「後頭部を鈍器で殴られたのが致命傷となっていたようです。」

「そうか。その鈍器は見つかったのか。」

「それらしきものがホテルのゴミ箱から見つかりました。今、傷跡と一致するか調べてます。」

くるっと容疑者三人の方を向いた。

「お話を伺っても良いですか。」

「はい……。」

「被害者の馬場さんに目立ったトラブルとかはありましたか。」

「私が知っている限りではなかった気がするんですけど……。」

「私もトラブルがあったというような話は聞いたことがないです。」

「……。」

「矢代さん、何かありました?」

「いえ、大丈夫です。何でもないです。」

(完全に焦ってるよな、何かある)



 「ホテルのゴミ箱から発見された鈍器が被害者の致命傷の傷口と一致しました。」

「犯人は突発的な犯行で焦っていたのか……。」

「返り血の付いた衣類は発見されていないのでまだ被疑者が保持しているかと。」

「所持品の捜査はもうしたのか。」

「いえ、一人が令状を持ってこいと言ったために全員が令状を求めてて捜査が進んでいないです。」

「成る程な、それ以外の何かが掴めれば良いんだがな。オレの第六感では犯人が分かっているんだが、物証みたいな根拠はないからな……。」



「被害者の血液が付着した刃物が見つかりました。刃物の柄からは被害者のものではない指紋が検出されています。」

「完全な証拠にはならないが、令状が取れるレベルにはなりそうだな。突き付ければ任意の所持品検査に応じてくれそうだな。」



「先程、こんなものが見つかりました。この刃物には被害者、馬場さんの血液が付着しています。さらに柄の部分に被害者のものとは違う指紋が検出されていてこの指紋があなたが提出した指紋と一致しました、矢代さん。」

「えっ……私はそんなことしてませんよ。」

「まず私があなたを疑ったのは被害者にトラブルがあったのかどうかを聞いたことに対してしどろもどろな返答をされたときでした。ただ、証拠も何もなく私が疑ったというだけでした。」

「それは“刑事の勘”ってやつですよね。その包丁は元々私が家から持ってきていたものなので私の指紋が付いていてもおかしくないです。証拠もなく、勘だけで話を進めるのは違うと思います。」

「落ち着いてください。この包丁はどんな目的で持って来られたんですか。」

「釣り堀に行こうとしていたので魚を捌くために。まあ、私は捌けなくて他の三人に任せきりですが。」

「既に他の方が触れたということですか。」

「はい。使った後は絵美が持ってました。」

「それではやはりあなたが犯人ですよ。」

「どういうことですか。」

「この刃物の柄からは他の人の指紋は一つも出てないんですよ。つまり他の人が触ったのを拭いたあとであなたが触ったということです。おそらく馬場さんが拭いたのでしょう。」

「なんで絵美がそんなことをしたと言い切れるんですか。」

「魚を捌いた後に良心から拭いたのだと思います。馬場さんのホテルの部屋のゴミ箱の奥からそれと思われるものが見つかっています。」

「絵美の良心に足を掬われたのか……。」



「被害者の血液が付着した衣類が矢代のホテルの部屋から見つかりました。決定的な証拠ですね。」

「ああ。本人は動機を何と言っているんだ。」

「ある男の取り合いをしていたことが引き金となったらしいです。矢代の元彼と馬場さんは結婚しようとしていたらしいです。」

「男女関係の系統をオレは理解ができないよ。」

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刑事の勘 キザなRye @yosukew1616

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