同じ物が好きな人とだけ

土蛇 尚

同じセンスを持っていないのなら

 幾度となく繰り返された大戦の後。多くの歴史や文化が失われ人類は、自分が愛せない物を愛する人との対話を諦め、自分が楽しめない物を楽しむ人との共存を諦めた。


 国家と言うシステムは古くなり、歴史と一緒にゴミ箱に直行した。人々は『ジャンル』と言うものが同じ者同士で集まり出した。そうしてジャンルから成長し国家から取って代わったのが『感性センス共有共同体』だ。同じ物を愛し同じ物を楽しむ人だけの共同体。センスの同じ人間しかいない都市。


 感性共有共同体は、ファンタジーを好む第一感、恋愛を好む第二感、ホラーを好む第三感、ミステリーを好む第四感、エッセイを好む第五感、そして現代ドラマを好む第六感が存在する。


 共同体のコロニーはどれも大きなドーム型をしている。しかしその大きさは人口によって異なる。第一感と第二感だけで人類総人口の約半分、100万の人々が住んでいる。


 ここ、第六感性共有共同体は「現代ドラマ」を好む人だけが住んでいる。コロニーの外壁を修繕するとある男の物語や、コロニーの外で旧時代の遺物を採集する調査隊の物語など、私達の生きる現代に実直に向き合う物語がここでは共有されている。

 最近の流行は、他の共同体と繋がっている鉄道が舞台のものだ。感性共有共同体は確かに分断されているが、無人の列車で物資の流通はしている。その機械任せの協力だけが他のドームとの繋がり。


 無人の列車に取り付けたカメラの映像が公開されている。大きなクレーターのある風景が広がるこの現代に物語を見出す。


 過去の断片的な情報によると、感性共有共同体は七つあったらしい。第四感に向かう途中で遠くに、廃墟になったドームが見える。

 第七感性共有共同体は『SF』と言うものを好む人々のコロニーだったらしい。


 SFが滅んだ理由は、誰も知らない。


 私達はこれからもずっと自分のドームの中にいる。

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同じ物が好きな人とだけ 土蛇 尚 @tutihebi_nao

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