悪質ブリーダーの最期

ヤミヲミルメ

悪質ブリーダーの最期

 とある犬種がブームになった。

 テレビの影響だった。

 今までペットに興味のなかった人々が、流行りの服を求めるようなノリでその犬種を買い漁り、ペットショップでは品切れが続いた。


 悪質なブリーダーが、無理にその犬を増やそうとして、危険な交配を重ねた。

 子犬が六匹生まれた。


 一匹目は、売り物にならないとすぐにわかった。

 その子犬は生まれつき目が見えなかった。

 ブリーダーはその子犬を生きたままビニール袋に詰めてゴミに出した。

 通りすがりの人が妙な予感にかられて袋を破り、子犬を助け出した。

 子犬はそのままその人に飼われた。


 二匹目の子犬は耳が聞こえなかったが、バカを騙して売りつけた。

 実は買っていった人物は、この子犬の耳が聞こえないことに気づいていた。

 購入者には子供が二人いる。

 娘はピアノを弾くのが好きだが、演奏はド下手だ。

 息子は犬を欲しがっているが、娘の演奏を犬に聞かせるのは忍びない。

 ゆえに購入者は以前から耳の不自由な犬を探しており、そういう犬を手に入れるためなら健常な犬の倍のお金を出してもいいと考えていた。

 けれどもブリーダーはこの子犬をさっさと手放したくてあせって、通常の半分の値段で売ってしまった。


 三匹目の子犬は嗅覚が、四匹目は味覚が不自由だったが、犬のことなどろくに見ていないブリーダーは、気づきもせずに普通に売った。

 購入した人たちは、獣医に言われてそれと知ったが、特に気にせず子犬を愛した。


 五匹目の子犬は、いくら撫でても何の反応も示さなかった。

 代わりに人間の目線や声にはよく反応し、それを気に入った客がいて、無事に買い取られていった。



 六匹目だけ、なかなか買い手がつかなかった。

 毛並みもいいし五感もそろっているのに、客どもはいったい何が気に入らないのか。

 これ以上、時間が経って、子犬が大きくなってしまう前に売りたい。

 ブリーダーは宣伝のために子犬をコンテストに出すことにした。

 ブームの犬種だったので、その犬種専門のコンテストがあった。


 先に縁が組まれた五匹と飼い主は、コンテストを純粋に楽しむつもりで会場へ向かっていた。

 そもそも住んでいる場所が近いので、六組を乗せた六台の車は同じ道路を通るはずだった。


 ブリーダーの車を除く五台の中で、五匹の子犬が同時に吠えだした。

 五人の飼い主は何事かと驚き、それぞれに車を止めた。

 山道に差しかかる手前だった。

 ブリーダーの車だけが走り続けた。


 落石の犠牲になったのは、ブリーダーの車だけだった。

 ブリーダーは即死だった。

 子犬の死骸は発見されなかった。

 ブリーダーを知る人々は噂した。

 六匹目の子犬は死産だったのに、あの人はコンテストに何を出すつもりだったのだろう。

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