夢を叶える男【第6話 待望】

カンダミライ

第6話 待望

 そんなある日、携帯に一通のメールが届いた。

差出人は、婚活イベントで連絡先を交換した、落ち着いた雰囲気の女性だった。そういえば、今時珍しく、LINEではなくメールアドレスを聞かれたのだっけ。そんなことを思い出しながら最近あまり使うことのないメールを開く。



 『先日は、ご連絡先を教えて頂きましてありがとうございました。木嶋さんともっとお話して、親しくさせて頂けたらと思っております。ご都合のよい日など、教えて頂けたら幸いです。』


紀本 綾子  


 

思った通り礼儀正しい人のようで、メールには丁寧な文章が綴られていた。余裕があるところを見せるために、すぐに返信したい気持ちをぐっと堪え、15分程経ってから返信する。



 『こちらこそ先日はありがとうございました。

よろしければ今週の土曜日、お昼でもご一緒できれば嬉しいです(^-^)

イタリアンと和食はどちらがお好きですか?』


 

コミュニケーション講座で学んだテクニックを遺憾なく発揮すると、10分程で返信が来た。



 『ありがとうございます。平日は会社の若い女の子達とおしゃれなお店に行くことが多いので、落ち着いた和食のお店だと幸いです。確か木嶋さんは渋谷の近くにお住まいだと記憶しております。待ち合わせは、渋谷駅の忠犬ハチ公像の前に正午12時でよろしいでしょうか。』



 『大丈夫です!それではお店を予約しておきますね。楽しみにしてます(^-^)』



『こちらこそ、宜しくお願い致します。』



 彼女の硬い文章に多少の違和感を覚えながらも、案外人見知りなのかもしれないし、完全に心を開かせることができていない自分の力不足だと考えることにした。


 そして運命のデートの日がやってきた。女性とデートなんて初めてのことだし、前日は緊張のあまり、3回もシャンプーをしてしまったが、2ヶ月半も特訓して自分は変わったのだと何度も自分に言い聞かせた。


 待ち合わせ場所に15分前に到着する。彼女はまだ来ていない。手のひらに15回目の人という字を書きかけた所で、ふいに後ろから声を掛けられた。


 「木嶋さん…ですよね?」


 そこには、落ち着いた紺のワンピースに控えめな小さいポーチを持った紀本さんが立っていた。

少し暑さが出てきたのだが、長袖なのは紫外線対策なのかもしれない。


 「あ、は、はい!

 今日はよろしくお願いします!」


思わず声が上ずってしまったが、そんな自分を見て彼女はくすっと笑いかける。


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


 会社の受付の子に教えてもらった、ちょっと大人な雰囲気のお店に入り、彼女と色々な話をした。


 彼女は現在33歳。学年も僕の一つ下で、証券会社の経理をしているという。恋人は3年間おらず、結婚も諦めていたところ、後輩からどうしても一緒に参加してくれと頼まれ、仕方なくあの婚活イベントに参加した、ということだった。


 「本当はもう結婚もとっくに諦めていて…参加されている方には失礼なんですけど、この前は、単なる付き添いとして参加したんです…。でもそんなときに、木嶋さんとお話させて頂いて、すごく話しやすくて、他の人は自分のことしか話してこないのに、木嶋さんは私の話もちゃんと聞いてくれて…」


 「そうだったんですね!気にかけてもらえて嬉しいです。」


 話題は尽きず、気がつけば3時間が経過していた。彼女は、待ち合わせの10分前に来るところや、言葉遣いからきっちりした印象は伺えたが、メールで思っていたほど硬い印象はなかった。むしろ歯を見せてニカッと笑ってくれる仕草は、心を開いてくれてるんだろうな、と僕は心の底から嬉しくもあった。

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