月見る月は…

茉白

第1話

 満月の夜にはいつも何か起こりそうな予感がする。


 私は夜道をぶらぶら家へと向かいながら、今日の夕飯は何かななんて考えていた。

 青信号の横断歩道を渡っていると、信号無視のトラックが私に向かって突っ込んできた。


 ああ、これか。予感はこれだったか。

 16年、案外短い人生だったなあと思いながら、ゆっくりと自分に向かってくるヘッドライトをぼんやりと見つめていた。

 次の瞬間、ドンっと強い力で突き飛ばされた。

 道路が近づいて思いっきり膝を擦りむく。

「いったーい!」

 思わず大きな声をあげる。

 振り返ると、トラックは走り去り、誰かが立っていた。


「ボーっと歩いてんじゃねーよ。」

 それは幼なじみのたけるだった。

「何、健じゃん。何してくれんの。」

「命の恩人に、他に言う事があるだろ。」

 私の手をつかみ、立ち上がらせながら言う。

「こんな近所で死なれた日には、寝ざめが悪いからな。」

「それにしたって、もっと他に助けかたってもんがない?」

 私はひりつく膝を引きずりながら、何とか横断歩道を渡り切った。


「健は何してんのよ。学校帰りじゃなさそうだけど。」

「俺はランニング。サッカー部は体力勝負だからな。」

「じゃあ、早く走ってきなさいよ。」

「もう帰るところなの。」

「じゃあ、帰んなさいよ。」

「言われなくても帰るさ。」

 そう言うと、健は走って行ってしまった。

 私は膝が痛くて歩きたくなく、しゃがみこんでしまった。


 今日の勘は悪い方だったな。

 そんなこと考えてボーっとしていたら、影が差す。

 顔をあげると、健だった。

「何、帰ったんじゃないの。」

「…足、痛いんだろ。」

「痛いけど?」

「ほら。」

 そう言うと、健はしゃがんで背中を私に向けた。

「乗ってけよ。」

「いいわよ。」

「いいから、乗れって!」

 半ば強引に、健は私を背中に乗せた。

 私はいつの間にか大きくなっていた健の背中にドキンとした。

「いいウェイトトレーニングだな。」

「重いって言いたいの?」

「軽くはないな。」

 健が笑いながら言う。

「ばか。傷跡残ったらどうしてくれんのよ。」

「…そしたら責任取ってやるよ。」

 ドキン、ドキン、胸が鳴る。


 見上げると、今日は満月。

 今日の予感は、何だかいい方に転がりそうだ。

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月見る月は… 茉白 @yasuebi

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