六感司

はちこ

第1話

 20XX年、教育現場や会社など、多くの人が集う場所には「六感司」の配置が義務付けされた。六感司とは、第六感を駆使して、人々のトラブルを解決に導く専門家である。主に、いじめやハラスメントといった、人間関係の複雑な問題を第六感を用いて明らかにし、解消する仕事をしている。

 私はその六感司だ。子どものころから、他の人よりも感受性が強く、かつてはHSPと総称される特性をもった人間だった。数年程前から、HSP気質の人々に対する研究が進み、HSPには、一定の割合で非常に優れた第六感を持つ人間がいることが明らかになった。優れた第六感を持つ人間は、専門機関において定められたカリキュラムの履修を行い、希望すれば六感司として働くことが出来る。今やエッセンシャルワーカーのうち、医師や看護師のような医療従事者の一種として確立された職業である。


 私は学校に配置された六感司だ。大企業や官公庁に配置された同期もいる。私の第六感の特徴と、仕事内容を紹介していきたい。

 私の第六感は主に3種類。人の感情の起伏が色になって見える、視覚的第六感。触れると触れた人の気持ちが読み取れる、触覚的第六感。人の言葉の真意が聞こえる、聴覚的第六感の3つだ。

 視覚的第六感は、教室など生徒が大勢集まる場所で、どの生徒と、どの生徒がトラブルになっているかを瞬時に把握することが出来る。攻撃的なオーラを持つ生徒は、私の目には赤いオーラをまとっているように見え、逆に、攻撃を受け精神的に弱っている生徒には青みがかったオーラが見える。攻撃している生徒、被害を受けている生徒を把握した後は、個別に対応していく。


 現在の学校現場においては、いじめられている側を隔離する方法はとらない。かつては、いじめを受けている側を保健室登校させるというような対応が主流だったが、今は真逆だ。現在はいじめている側、つまり攻撃的になっている生徒の精神的な問題を解き明かすことに主力が置かれている。

 攻撃的になっている生徒は、教育委員会が定めた手順にそって、個別の面談を行う。その際に力を発揮するのが、触覚的第六感。もちろん、生徒自身が自分のことを語ってくれれば、この第六感は使用しない。しかし、ほとんどの場合、生徒から口を開くことはないため、肩や背中に手を添え、その生徒の気持ちを読み取っていく。また、自ら口を開いたからといって、真実を語っているとは限らない。そういう時には発せられている言葉と本音が同じかどうか聞き分ける、聴覚的第六感を使用する。

 攻撃的な生徒のほとんどが家庭や友達関係のトラブルで大きなストレスを感じている。ストレスの発散方法がいじめ行動として現れるのだ。その生徒が抱えているストレスを第六感を使って明らかにし、生徒が抱えているものを解きほぐしていく。保護者を交えての話し合いの場も設けられる。六感司のスキルは保護者に対しても有効であり、根本的な問題解消を進めていく。


 六感司が配置されるまでは、アンケートなどを使っていじめを把握しようとしてきたが、限界があった。教育現場では、記名式のアンケートが多く、その場合、いじめられている側はいじめがエスカレートすることを恐れ、真実を書くことはまれであり、いじめが明るみに出ずらい。同様に、無記名式のアンケートも行っていたが、その場合、対象者を特定することが難しかった。六感司がいれば、そういった問題もクリアになる。


 そもそも人と人には相性というものがあり、万人が万人と必ずうまくやれる、というものではない。学校においては、六感司による予防的措置も多く取られている。まず、新入学の健康診断時に、六感司が生徒の特性調査を行う。クラス編成の際、相性の悪い生徒同士を別のクラスにするといった対応も出来るようになった。新入学のクラス編成後も、進級時のクラス替えの際は必ず六感司による特性調査を行う。


 企業における六感司の活躍も忘れてはいけない。上司と部下、同僚との相性といった人間関係の良し悪しが業績に大きく反映することは、現在、当たり前のこととして認識されている。我慢して、ストレスを溜めることは決してプラスにはならない。ハラスメントに関しても、以前よりは意識されているが、無意識なハラスメントに対しては、一般人では解決が難しい。そういったケースも、六感司が解決している。ハラスメントの被害者は加害者の名前を出しずらいが、六感司にかかれば、被害者、加害者の把握は簡単だ。あとは教育現場と同様、加害者の心の問題を解消していく。


 また、近いうちにさらに法律が改正され、六感司として活躍できる人材が、六感司以外の職に就くことも認められる。

 例えば、医師が六感司になり得る第六感の持ち主の場合、診断時に第六感を使うことが許可される。一見無関係に思える症状が、同じ原因から引き起こされている、といった総合的な診断や病気の早期発見を可能にするのが六感司の能力だ。警察においても、第六感を使えば、犯罪を未然に防ぐことが出来るだろう。すでに起こってしまった犯罪の捜査も第六感が役に立つ。犯罪に手を染めようとしている人間、あるいはすでに犯罪に巻き込まれた人間を非常に高い確率で見つけ出すことが出来るだろう。

 

 六感司の活躍により、以前に比べると、社会はいい方向へ変化し始めた。六感司が第六感を駆使し、人々のまわりに起こるトラブルを解消していくことで、幸せへと導くことが出来る。六感司としての私はまだまだ、駆け出しだが、一人でも多くの人を幸せへと導いていけるよう、今後も感覚を研ぎ澄ましておきたいと思う。


 


 


 

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