Last meal

谷風 雛香

第1話 ミートパイ

 白い皿の上に、一つのパイが載っている。

部屋の明かりに照らされて、油がテラテラと光っていた。その側には、一対のナイフとフォークが無表情に並んでいる。

 そして、その前には一人の男が座っていた。男の外見は三十代ほどで、痩せ細った体に窪んだ瞳が印象的だ。

 彼は、ナイフとフォークを手に取るとパイにサクッと突き立てる。パイからは仄かに湯気が立っていた。丁寧に一口ほどに切り分け、口に運ぶ。


「母さんの味だ」


 口に広がる肉の旨味に、かつての母を思い出す。それは、男にとって唯一の大切な思い出だった。

 この男、アルバートは誘拐、殺人で逮捕された死刑囚である。彼は数十人の男女を誘拐し、暴行を加え殺した。後の捜査では、その死体の肉を食べていた証拠も出てきている。よって、刑務所に収容された3日後に死刑判決が出されていた。

 そして彼は、その最後の晩餐に一つのミートパイを望んだ。

 彼はまたナイフを動かし、パイを口に入れる。パイの切り口からは肉汁が流れ、それは、切断した死体から流れる血を彼に連想させた。ゆっくりと、噛み締めるようにパイを食べていく。ナイフには肉の脂がつき、鈍い光を返している。

 そうして、最後の晩餐を食べ終えた彼は別室に連れて行かれた。彼はこの後、首を吊り苦しみながら死ぬだろう。

 その道すがら、彼はまた思い出す。初めて人を殺し、その死肉を食した日を。大切な母を肉に変えた日を。

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Last meal 谷風 雛香 @140410

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