幽霊の方程式~美少女×憑依=最強~

@hasumiren444

第1話 終わり


何も考えずただ茫然と生きてきた。



 何となく大学に行き、何となく就職して、日々仕事に明け暮れる。

 そんな人生を歩んでいたら、いつの間にか彼女を作り、いずれ結婚して、自分に似た面影の子供を持って、そんな我が子の成長を見届けながら死んでいく人生だと思っていた。


 そう考えて早38年、気が付いたら黒いエナメルのカバンを持ってただぬるいコンクリートで成形された道を凝視しながらひとりポツンと立つスーツ姿の男性がここにあった。


 かつての友人たちが家庭を作り、顔にどこか疲労感はあっても幸せそうにしている姿が、いまだに彼女の一人もいたことがない自分には直視できないほどの光輝いて見えて、気が付いたら疎遠になっていた。


 かつてあれだけ熱を入れていたゲームや漫画もアニメも次第に見なくなり、惰性で続けているソーシャルゲームに時間も金も浪費する人生。


 「もう、こんな人生終わってもいいや……」


 そんなことを考えながらつい歩を進めてしまったからだろうか。

 

 注意を示す鉄の棒が、赤く煌々と輝いていたのに気づかなかったのは。

 

 自動車のランプ特有の黄色の光を目の端に捉えた時、ハッとして横を振り向くと、猛烈な速度で自分めがけて、突っ込んでくる巨大な鉄の塊があった。

 

 そのトラックはどうにかして避けようと甲高いブレーキ音を立てながら、その身を捩じりながら自分に向かってくる。

 

 と、次の瞬間、自分の体がものすごい衝撃を感じながら吹き飛び、意識が暗転した。




                  ♦


 

 

  目を覚まし、ふと見上げるとそこには透き通った空色の世界がどこまでも広がっていた。


 足元は透明なガラスのような床を踏みしめており、その向こうには雲が広がっているなんとも不思議な空間だった。


 目線を前にやると、そこには一台の机と椅子、そして、そこでいそいそとなにやらタブレット端末を弄りながら独り言をつぶやいている女の子がいた。


 

 「ええと……この人は一昨日この世界に飛ばして……この人は……ああもう先月死んじゃってるなー」


 そんな風にせせこましく働いている様子の女の子がこちらに気づく。


 「ん? あー!君っ!」


 突然声を掛けられて、凡庸でも社会で生きてきたサラリーマン特有の癖で反射的に「はい!」と答えそうになる口を必死に結んで抑える。


 

 そんな挙動不審な姿を尻目に女の子は立ち上がって皺の寄った服装を正す。

 

 透き通るような緑色の目とシルクのようにきめ細やかな青く長い髪の小さな女の子だった。


 脇や肩、胸元が露出しておりそこから白い肌が見える。そしてそんな白肌を際立たせるかのような赤と橙を基調とした煌びやかな意匠のドレスを身にまとっていた。


 下に目をやると鼠径部が若干見えるほどのスリットの深い黒のスカートをゆらゆらとなびかせていた。


 そんなスカートを大きく揺らしながらステップで自分に近づき正面に立って言った。


 

 「はじめましてっ!私はここの管理を担っている女神のメルアって言いますぅ!」


 

 「……ああ!こちらこそはじめまして。ええと、墓前観世といいます」


 「観世さん!いきなりですけどあなたは今!ここはどこでどういう状況か把握していますか?」


 「いえ全然……そもそも、ここはいったいどこなんですか?」

 

 「はい!ではまずここがどこなのか説明させていただきまーす!……よいしょっと……」


 「ええと……まずここは天国に最も近い場所、レリフフィース《救済の終着点》と呼ばれる場所です。」


 「天国に最も近い場所……?え……まさか」


 「はい!あなたは死んでここに来たということになります!」


 「死んだだって……」


 自分のことを女神と自称する女の子はうんうん、わかりますよといった表情で頷いている。


 「そんなこと!いきなり言われたって信じられるわけがない!」


 「ところがどっこい!あなたはトラックに轢かれて見るも無残な姿で死んでしまったのです!そんなこともありますよ!どんまいどんまい!」

 

 深刻に悩む自分をよそに太陽のように明るい女の子は言葉を続ける

  

 「それにあなたは逆に運がいいんですよ!」


 「いきなりトラックに轢き殺されてあの世に連れて込まれる……これのどこが運がいいんだ……」


 「いいえ!ここはあの世ではないんです!天国に一番近い場所です」


 「一緒じゃん」


 「それが違うんですよ!」


 笑みを浮かべながら自信満々な顔で話を続けた。


 「普通の人は死ぬとそのまま天国あるいは地獄に振り分けられます!しっかぁし!天国行きが決まった人の中でランダムでもう一度人生をやり直す機会を得られる、そんな超絶に運が良い人がいます!」


 そして、自分に人差し指勢いよく向けてを言い放った。


 「それが、あなたなのです!」

 

                       


                 ♦




「……うーんと、つまり、転生ってこと?」

 

「そうです!そうです!いやぁ理解が早くて助かります!」


「断ることってできますか?」


「なんでっ!!!」


「えっ!えっ!どうしてですか?まだまだ人生を続けることができるんですよ!!」


「正直……自分の人生はやり直して楽しい人生、ってわけじゃなかったんでね」


人生をやり直せると聞いても、目をつぶって思い浮かべるのは嫌な現実ばかりだ


「残念だけど……その権利は別の人にでもあげてくれ」


「……ただのやり直しじゃないと言ったら、もう一度考え直してくれますか?」


「ただのやり直しじゃない……?」

 

 腹のすいた鯉のように食いついたと女神が感じると、怒涛のセールストークを飛ばす。


「ええ、そうです!ただのやり直しではなく、所謂チートを手にやり直すことができるのです!」


そう言って大きく身の乗り出す。その際、胸が大きく揺れたが、それを凝視したのをごまかすように目をそらす。


 そのことに気づいたのか、にっしっしと意地悪な笑みを浮かべる。


「おやおや、興味がわいてきたんじゃないです?」


「……ちょっとだけ」


すると、女神は胸を自分の押し付けて足を絡ませながら自分の耳に口元を近づけて小さくささやく


「たくさんの可愛い女の子とエッチなこと、い~~っぱいしたくないですか?」


女神のそんな甘く色っぽい言葉に脳が震える。


「このチート能力を使えば、ハーレムだってちょちょいのちょい」


「……ほんとに?」


「ほんとにほんとに」


「まじで?」


「まじまじ」


「じゃあ……転生してみよ」


と言葉を言い切る前に自称女神は、押し当てていた身体をパッと離してタブレット端末を操作しだした。


「はい!言質取りました!一名様ごあんな~いですっ」


変わり身の早さに愕然としながらも、この女神さまは気にする様子もなく、手を動かしている。


「次に使えるチート能力なんですけどー超強いチート能力1つか便利なチート能力3つのどちらか選んでほしいんですけど……」


「えっ!自由になんでも使えるんじゃないの!?」


「それがですねぇ世界の均衡を著しく損なう可能性があるとかなんとかで出来ないんですよねぇ……うーん」


女神は目を少し閉じて一考した後、言う


「いいか、適当で。全部入れちゃおー」


「女神???」


(この女神様、とんでもなくポンコツなんじゃないだろうか)


そんな不安をよそにこのポンコツ女神様は忙しい様子で手を動かしていき、ある時ピタッと手を止めた。


「これで準備は完了しましたっ!!では、別の世界に送りますっ!!」


「ちょっと待って!!まだ心の準備ができて……」


「だいじょうぶいですって!!あとは流れでパーといけばハーレムでも何でもいけますって!!」


「おまっ!そんな適当に」


「もう会話するのも面倒になってきた……はい、いきまーす」



そういって女神は眼を瞑り、左手を自分のほうに伸ばし額に触れる。


その瞬間、自分の体全身が、黄色く光り輝きだした。


「あと、十数秒後も経てば貴方は向こうの世界にいるでしょう。眩しかったら眼瞑ってていいですよ。……んーなんか忘れているような」


(あとちょっとで、今までのクソったれな人生を消して、俺の新しい世界で新しい人生が始まるのか……)


そう思うと、高揚感で身体が身震いした。


(そうだ!そうだよ!取り戻すんだ、今までどんなに手を伸ばしてもできなかったすべてを!)


「ああああああああああああああ!!!!」


そんな考えを吹き飛ばすほどの大きな頓狂声が横から飛んできた。

 

そしてその声の発生源である女神は、その大きな目をぱちくりさせながらポツンと言う。


「転生する身体……決めてない……」


「えっ!?」


(確かに、今までの過程でどういったものに転生するかは聞かれていない、だからてっきりこの肉体で転生するものだと思っていたが)


確認するようにゆっくりと俺は口を開き、言葉を紡いでいく。


「じゃあ……どう…なるの?」


「肉体はとっくに死滅しているので、精神だけ向こうの世界に飛んでいくかも」


「それで?」


「精神だけとなってるから死ぬこともできず彷徨うかも」


「永遠に?」


「永遠に」


「…………………………………………………」


「…………………………………………………」


お互いに長い沈黙が続いていた。


その沈黙を破ったのは「ぷふっ」といった噴き出した笑い声。


それに呼応するように女神も乾いた笑いが吹きだす。


「あはは……」


そしてそんな笑い声は怒りというスパイスを加え、女神のに笑い声も重なって大きくなっていく。


「あははははははあっ!」


「ははははははっ!!」


「「あーはっはっははははははははあああああああああ!!!!」」


「っふっっざけんなあああああああああああああああっ!!!!!!」


「ごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!!」


俺は叫びながら、女神に手の伸ばそうとするも視界から何もかも消えて視界が暗転した。


こうして俺の第2の人生は始まり、終わったを迎えたのだった。

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