メニナリ・ミミニナル

サムライ・ビジョン

おぎなう、ふたり

「姉ちゃん、あの幽霊ひと…なんて言ってるのかな?」

妹の私は、路上で手招きをする幽霊を目にしたが肝心の訴えかけには応えられない。私には幽霊の言葉が聞こえない。


「え〜と? なになに? …お墓を綺麗にしてくれだってさ。虫やら苔やらがひどくて気分が悪いらしいよ」


その幽霊は、白いシャツを着た大学生くらいの男性だった。

「墓はこっちです! あ、ちなみに僕、長谷川っていいます! 下の名前は諸事情あって忘れちゃいましたけどね! あなた方は?」

よく喋る人だ…

「私はミミです。耳が聞こえるのが取り柄なんですよ〜 こっちが妹のミエ」

「へ〜! 耳が聞こえるのがミミさんで…名前がミエさんということは…?」

「そうなんですよ。この子、見えはするんですけど幽霊の声は聞こえなくて…」

いいな、姉ちゃんは。私も幽霊のこぼれ話を聞いてみたいよ。


「ここです! ひどいもんでしょ?」

長谷川さんは苦笑いをしている。ひどい有様だと言っているのかな?

確かに墓石のほとんどが苔にまみれているし、蜘蛛の巣は張り巡らされているし…何より、お花が一輪も供えられていないなんて…

「これはなかなかですね…」

「姉ちゃん。掃除が終わったらさ、お菓子か何かお供えしようよ。カバンに何か入ってない?」

「おやつカルパスならあるけど…」

「お〜! おやつカルパスですか! くださいな!」

長谷川さんの声は聞こえてこないが、出会ったときからずっとニコニコしている。


…いつもより時間がかかってしまった。

「いやぁありがとうございますホントに! これで他の『ゴー友』にバカにされずに済みますね!」

「ごーとも?」

「ゴースト友達っす! 隣の墓のおっちゃんとか特にからかってきて…おやつカルパス、ありがたくいただきますね!」


頭を下げ、嬉しそうに話していた長谷川さんはいきなり墓場を抜けだし路地に出た。

「姉ちゃん。長谷川さん、どこに行ってるの?」

「よくわかんないけど、長谷川さんがよく遊びに行く場所があるんだって。そこに、私たちと気が合いそうな人がいるらしいよ」

気が合いそうな人…?


「ここです!」

長谷川さんが指さしたのは、古びた建物のドアだった。探偵事務所…? と書いてある。

「ごめんくださ〜い…」




「いらっしゃいませ。わたくし、家入大介です」

「和村真由美です。どんな依頼でしょうか?」

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