第六感を恐れる少女は素敵な夢に抱かれたい

チャーハン

素敵な夢を見たことがないんです

 私は、今日も無意識に見る夢の中で殺される。

 今日も明日も明後日あさって明々後日しあさっても――


 ずっと変わらず、私は殺されていく――



 聞きなれた甲高い笑い声と鳴り響く警笛音が鼓膜を振動させる中、あなたは閉まりゆく黄色と黒色で作られたストライプ柄の棒を見つめていた。


 砂利バラストと枕木が敷かれたレールの上に立っているにも関わらず笑っている。笑える状況でないことは理解出来る筈なのに、あなたは笑い続けている。


 もし他人がこの光景を見たら、何を謳うだろう。

 そんな行為はやめろという自己に溺れたような正義感か。

 ずっと生きてくれという他者の気持ちを無視した自己満足なのか。

 命を簡単に捨てるなんてという嘲笑なのか、哀れみなのか。


 そんな者は、人間の本心を見抜けるさとりにしか分からない。


 ただ、これは知ってほしい。死ぬのは怖い。あなたが感じているように、自己の境界線が曖昧になってしまう様な感覚に陥っていくから。


 ――そろそろ、お別れの時間らしい。


 聞きなれた摩擦音と地響きがあなたの鼓膜を刺激する。首を動かしたくても動かせない。黒色の瞳が瞼で閉じれない。腕や足は金縛りにあった様に動かせない。

 直立不動して、立ちすくむことしか出来ない。


 唯一出来ることは――

 あなたの最期を見届けるだけ――


 けたたましい絶叫を辺りに響かせながら鉄蛇は進み続ける。

 道中、鉄蛇は何かに衝突し深紅の液体と引き裂かれた肉塊を吐き続けたが、特に気にする素振りすら見せず闇夜に姿を消した。


 三日月照らす午前一時。鉄蛇が通り過ぎた線路の上にこびりついた深紅の液体と肉塊を見つめながら、私は線路の外に立っている。既に冷え切った生物だった物は痙攣する素振りすら見せず骸となっていた。


 夢が見せる世界は、残酷だ。

 目を背けたい光景から目を背けられないから。


 夢が見せる世界は、残酷だ。

 他の人が見るような幸せな夢を見せてくれないから。


 夢が見せる世界は、残酷だ。

 私に傍観者という罪を背負わせるのだから。


 私は夢の世界が大嫌いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第六感を恐れる少女は素敵な夢に抱かれたい チャーハン @tya-hantabero

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ