天才探偵と第六感だけの助手――ただし、その勘は意外と当たる――

月影澪央

人狼ゲーム

 俺は今日この小学校に呼ばれ、閉じ込められた。


 そして、人狼ゲームの始まりを告げた。


 脱出には学校に隠されている二十のボタンを全て押すか、二人の人狼を追放すればいい。



「とりあえず、自己紹介しましょ」


 そんな一人の声から、全員自己紹介をした。


 内容は簡単にまとめるが、

 ほわほわした印象を受ける少女、吟陽うたひひら。

 自己紹介を進めてきたリーダー的存在になりそうな男、アサフユ。

 中性的なよくわからない人物、一ノ瀬いちのせ希海みう

 ヘッドホンを首から下げていて機械に強そうな男、たかねPピー

 ただのチャラいイケメンのようにしか見えない男、神力しんりきハルキ。

 厨二病感が漂っていてかなり尖ってる男、ハヤト。

 しっかりしていてノリも良さそうな少女、りおん。

 ショタボの少年、水月みずつきイズト。

 そして俺の助手であるカナデ。

 ちなみに俺はタクトだ。



 人狼ゲームというくらいだから役職もあり、村人陣営が素村五人、医者とプログラマーが一人ずつ。人狼が二人と狂人が一人。


 医者は死体を見つけると生き返らせることができる。

 プログラマーは、防犯カメラやセンサー情報、心電図情報などを見ることができる。


 そして役職は視界の右上の端に表示されるらしく、俺はどうやらプログラマーを引いてしまったようだった。

 その下には、色々な情報が映し出されていて、それは動かせるらしい。

 まあ、ここで動かすモーションをすると役職がバレてしまうのでやらないが。



「ど、どうする……? タクト」

「とりあえずボタンを探す。カナデも来るならついて来ていい」


 俺はカナデにそう言い、学校を進み始めた。他の人たちもそれぞれ散って行った。



 まず学校の地図を見る。

 そういうのは階段の前にあることが多い。なので、階段の方に向かって行った。

 その予想は当たっていた。


 校舎は三階建てで、上から見ればVの字型。Vの左側が主に教室で、右側が主に特別教室。


 左側は、一階が二年と三年の四教室、二階が一年三と三年の四教室、三階が四年と三年の四教室。


 右側は、一階に職員室と保健室と図書室と家庭科室、二階に五年三教室と音楽室と理科室、三階に六年三教室と美術室とPC室と放送室。


 多くの人が右側に向かった印象だったから、俺は左を回ることにした。


 ちなみにカナデは後ろについて来ている。

 仮にカナデが人狼だったなら、俺は確実に死ぬ……とは限らないか。

 能力的にとか、そういう意味ではない。


 ほとんどが右にいるから、左で殺されれば容疑者は限られ、人狼も見つけやすい。

 あと、右で殺されれば、俺たちは左にいたから関われないとも言える。


 村人陣営からすれば、有利な行動だと思う。他の動き次第というのもあるが。


 俺たちは、一階の左側にある教室を一つずつ回って行った。


 一階にあったボタンは奥の二年三組に一つ。

 壁に埋め込まれていたが、わからない場所ではなかった。


 その時、心電図が一つ止まった。

 止まったのは、あのしっかり者に見えた少女、りおんだった。


 カメラに目を移すが、どこのカメラにも映っている気配はない。

 カメラの位置は、各階段とその周辺。


 カメラ情報からすると、各教室か廊下ということになる。

 なら、どこかしらのセンサーに映っている可能性は高い。


 センサーは、各部屋に何人いるのかがわかるもの。だから、廊下と階段は反応しない。

 誰が居るのかもわからないので、噛み合えば噓をつくことも可能な情報。


 センサーを見ようとしたその瞬間、妨害が入った。


 人狼は妨害を起こすことができる。

 停電を起こせば、人込みで殺してもバレにくい。死体も見つけづらくなる。

 電波妨害を起こせば、かなり強い情報を網羅できるプログラマーを無力化できる。

 主にこの二つだけだが、これはこれで強い。


 妨害を何か行動することで直すことはできず、一定時間経つと強制的に直る。


 現に俺は電波妨害でセンサーを見損ねた。

 一瞬だけ見た感じだと、左は俺とカナデの他に三階に一人。あとは右側だったが、全部で十人分はなかったように思える。


 そして電波妨害は二十秒ほど続き、それが直った瞬間に、緊急招集が入り、一階のV字のつなぎ目にあるホールに強制転移させられた。


 死体を発見し、医者ではない場合、緊急招集でそれを報告し、議論となる。

 電波妨害中は招集ができないため、終わった瞬間に招集がかかったものと思われる。



「おぉ……こんな感じなんだ……転移」


 そんな声が上がる。


「それで?」


 アサフユがそう聞く。


 俺は心電図でわかっているが、他はなぜ招集されたのかわかっていない。


「招集したのは俺です」


 そう答えたのはチャラいイケメン、神力ハルキ。


「それで、えっとー、左側の廊下と階段の間あたりで、りおんさんの死体がありました」


 ハルキはそう説明した。


「えっと、タクト、心電図情報あります。妨害の前なので三十秒ほど前に死にました。カメラはどこにも映っていなくて、センサー見ようとしたら妨害という感じです」


 とりあえずそう発言しておく。見たのにこれを言わない理由は無い。


「妨害の前ならイズトさんはできないと思います。三階で一緒にいました」


 ハルキはそう発言した。


 だが、センサーでは三階は一人しか映っていなかったはず。仮にどちらも廊下にいた場合、その一人が見ている可能性が高い。

 まあ、見えてないこともあるのでそれは様子見でいいか。


「あ、一応怪しい位置にいるので場所言っておきます。左側一階の二年三組教室の中にいます。カナデと一緒です。俺目線、カナデは無理で、カナデ目線俺は無理だと思います」


 左側が数人だったので言わないのは怪しく思われる。そう考え、俺は場所を言った。


「うん。タクトはできないと思う。ホールから左側に行って、一部屋ずつ探しに行った感じで、結構時間かかりました」


 カナデがそう言い、お互い殺せないことを証明する。


「じゃあ、あるとすればそこで二狼か一狼一狂人かしかない感じ?」

「そうなります。でもまあ、俺は心電図情報出してるので、狼だった場合りおんさんがプログラマーじゃない場合破綻するので、その行動で白く見てほしいです」


 アサフユの質問に俺はそう答える。


 アサフユが議論の舵を切る形になったから、アサフユが人狼陣営だったら結構ヤバい。


 そのあと、全員位置や経路を話した。


 アサフユ、ハヤト、一ノ瀬希海は三人右側の部屋で見合っていて、複数人なので信憑性が高い。ここで人狼陣営三人じゃなければ。

 たかねPと吟陽ひらも右側の部屋で見合っていて、位置が移動していたら三人に見られそうな位置。


 となれば、怪しいのは水月イズトと神力ハルキか。



「今回できそうなのは右側の四人くらい?」


 アサフユは議論のまとめに入ろうとして、そう聞いた。


「いや、えっと、イズトさんかハルキさん、教室入りました?」

「いや、俺は入ってない」

「俺も入ってない」


 おっと……?


「カナデ、どう思う?」


 一応ここは助手であるカナデに聞いてみる。


 カナデはいつも感覚というか、勘というか、そういう第六感的なもので動いている印象が強い。もしかしたら、何か感じているかもしれない。


「ちょっと、嘘ついてるかも。あの二人が」


 カナデは俺の耳元でそう言った。


「その根拠は?」

「勘」

「そうか……」


 勘じゃ当てにならないよなーと思っているような雰囲気を出しておく。


「センサー情報一瞬だけあって、左側の三階に一人ついてたんですよね。それは死後なのでそこにいる人が関わってる可能性は無さそうなんですけど、他がみんな右側で、りおんさんが階段っていうのが正しいと、その二人のどちらかじゃないとおかしくて……」


 俺は攻めにかかった。


「じゃあ、俺教室入ったかもしれないです」

「いや、入ってなかったでしょ、絶対」


 ハルキとイズトは食い違う。


「じゃあ、一応聞きますけど、アサフユとハヤトさん、希海さんの三人は完全にできない感じですかね? そこで人狼陣営ってことは……?」

「あ、ボク医者なのでそれはないです」


 医者COしたのは一ノ瀬希海。対抗も出ないので確定。



 少し考え、推理ができた。


「センサーで、右側にもついていた記憶があるんですよね。十人いないって一瞬でわかるくらいですた。今の証言だと、映っていたのは七人。でも、七人だと一瞬で判断はできない。三人の情報の方が正だと思うので、残りの二人、ひらたかねで嘘をついていると思います。まあ、ここで二狼はしっくりこないけど……」


 だがこれは俺の推理でしかない。


 この人狼はハマればプログラマー最強ゲー。あとは、人狼陣営のミス。人狼陣営は、殺す前に電波妨害をするのが賢い立ち回り。今回は色々と運がよかった。


「じゃあ、狼と狂人? もう一狼はタクト視点、誰だと思う?」


 アサフユはそう聞いてきた。


「恐らく、教室に入ったかもしれないと言ったイズトさん。ハルキさんとの食い違いがある。それに、俺は教室にいたとは言ってない。実際ついてたのはホールの左側。恐らく、それはハルキさんじゃないですかね」


 ちょっとセコイが、これも駆け引きの一つだ。



  ◇ ◇ ◇



「ふぇーっ……」


 俺はつけていたゴーグル型の機械を取って起き上がった。


「いやぁ、ありがとうございました」


 そう言ってアサフユは手を差し伸べてきた。


「ありがとうございましたー」


 俺はその手を握ってアサフユと握手を交わす。


 俺とカナデは探偵だが、何でも屋だった。


 今回はそのうちの一つで、ゲーム実況者たちが、最先端の技術を使った人狼ゲームで宣伝しようというのがあったのだが、未知のものすぎて人が集まらなかった。

 だから今回、俺とカナデが協力した。



「さすが探偵でしたね」


 アサフユはそう言ってくる。


「まあ……俺はプログラマー引いちゃダメでしたね」


 俺は笑いながらそう答える。



 こうして俺たちの仕事が一つ終わるのであった。

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