風船が教えた危機

アほリ

風船が教えた危機

 「ん?」


 とある都会の森林の生い茂った大きな公園に住んでいるシジュウカラのラーソは、見上げている青空の遥か向こうから、とても大きな赤い風船がこっちへと向かって飛んできている事に気付いた。


 「何だこりゃ?な、何なんだ?」


 シジュウカラのラーソは慌てふためいた。


 「風船にぶつかるっ!!ぶつかるっ!!ぶつかるぅーーーーーー!!

 つ、翼が動かないっ!!緊張で翼を拡げられないっ!!逃げられないっ!!

 ひいいっ!!ぶつかる!!ぶつかるぅーーーーーー!!!!!!」

 

 お、俺のくっ、嘴がっ!!風船に!!近づいていく!!



 ぷすっ!



 ばぁーーーーーーーーーん!!!!!!

 



 「つつぴぃーーーーーー!!」



 小さな嘴で大きな風船を割ってしまったシジュウカラのラーソは、飛び出してきた激しい風圧に煽られて見知らぬ向こうへと吹っ飛んでしまった。



 「つぴぃーーーーーーーーー!!!!!」



 その時だった。


 吹っ飛ばされたシジュウカラのラーソの脳裏に、様々なビジョンが流れ込んできた。


 そのビジョンはシジュウカラのラーソの想像を絶するめくるめく光景をと一瞬で見せ付け、ハッ!と気が付くと何時もの年期の入った木々の拡がる森林の1本の木の枝に留まっていた。


 シジュウカラのラーソは硬直していた。


 「これは・・・俺のインスピレーションなら生まれた光景だろうか?

 それとも、これから起こりうる由々しき事態への警告だろうか?????」


 しかし、シジュウカラのラーソはこの未知なる第六感の感覚がまだ信じられなくなっていた。


 「何だろう?この恐怖感は?何か本当に恐ろしい事が起きそうで、怖い・・・

 しかし今すぐ起きてはならずとも、起きてしまうのは確実だし・・・」


 シジュウカラのラーソが考える間もなく、脳裏に入ってきた考えたくもない事実を今すぐでも公園に集う小鳥達に伝えなければならない任務に駆られ、深く息を吸い込んで大きな公園中の小鳥達を集める為に大声で鳴いた。


 ヂヂヂヂヂヂヂ!!ヂヂヂヂヂヂヂ!!ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!!ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!!ヂヂヂヂヂヂヂ!! (みんな集まって!!)


 「ラーソ・・・何だよ?」


 「何か用かラーソ?」


 「今私は忙しいのよ?!」


 「こんなに仲間を集めて何をしたいんだ?」


 スズメやムクドリ、ヒヨドリにメジロにホオジロにハクセキレイやヤマガラやオナガ等のこの大きな公園を塒にする沢山の小鳥達がシジュウカラのラーソを囲んでひしめきあっていた。




 「みんなーーー!!聞いてくれーーー!!一大事なんだーーー!!」




 「一大事ってなんだい?」


 「また食い物のミミズが逃げたとかでしょ?」


 「またくだらない事だったらフルボッコだからな?!」



 ・・・言うか・・・


 ・・・言わざるべきか・・・


 ・・・やっぱり言おう・・・


 シジュウカラのラーソは、勇気を振り絞って訴えた。


 「間もなく、この公園の木々の過半数が斬り倒される!!

 みんなの塒が伐り倒される!!

 意味も無く全部伐り倒される!!

 棲む場所が間もなく無くなる!!」



 「はあ?」


 「寝惚けてるんじゃねーの?」


 「この鬱蒼した森は、人間に守られてるんだよ。街のシンボルなんだよ。

 人間の憩いの場だよ?

 何でこよ森林が伐り倒されるんだよ。」


 「気でも触れたのかよ?」


 「そこ根拠は?」



 「根拠はあるよ!!この風船が教えてくれたんだ!!」


 シジュウカラのラーソは、地面に墜ちた割れた赤い風船の破片を疑心暗鬼のまわりの小鳥達に見せた。


 「この割れた風船が教えたって、ここから幻聴でもしたんだろ?」


 「風船割れる音こわーい!!!!」


 「さっきから黙ってりゃ訳のわかんねぇ事をベラベラ喋りやがって!!

 この森が伐られるなんてあり得ねぇ戯言抜かしやがって!!」


 「大丈夫でーーーす!!」


 「伐られませーーーん!!」


 「嘘つき決定!!」


 「やーい嘘つきーー!!」「嘘つきーー!!」「嘘つきーー!!」「ウソじゃなくてシジュウカラだけど嘘つきーーー!!」


 チュンチュン!!ピーピー!!ジャー!!ジャー!!ピーピー!!チー!チー!チュンチュン!!ピーピー!!ジャー!!ジャー!!ピーピー!!チー!チー!チュンチュン!!ピーピー!!ジャー!!ジャー!!ピーピー!!チー!チー!チュンチュン!!ピーピー!!ジャー!!ジャー!!ピーピー!!チー!チー!


 小鳥達は一斉に、シジュウカラのラーソに向かって大ブーイングを投げ掛けてきた。



 「嘘つきーー!!」「嘘つきーー!!」「嘘つきーー!!」「嘘つきーー!!」「嘘つきーー!!」「嘘つきーー!!」


 チュンチュン!!ピーピー!!ジャー!!ジャー!!ピーピー!!チー!チー!チュンチュン!!ピーピー!!ジャー!!ジャー!!ピーピー!!チー!チー!チュンチュン!!ピーピー!!ジャー!!ジャー!!ピーピー!!チー!チー!チュンチュン!!ピーピー!!ジャー!!ジャー!!ピーピー!!チー!チー!



 「本当だもん!!本当にだもん!!

 何だよ何だよみんな!!

 今直ぐに起こる一大事を警告してあげてるのに!!

 何で信じないんだーー!!

 ここの木々だって伐られるんだよーー!!

 伐り倒されて棲みかを失ったって吠え面かくなよ!!

 信じてくれ!!本当伐られるんだ!!この公園の木々がぁーーーー!!」


 シジュウカラのラーソは半べそをかいて、小鳥達のブーイングを背にその場を離れて飛んでいってしまった。



 ・・・・・・


 ・・・・・・




 うぃーーーーーーーーーーん!!


 ぎぃーーーーーー!!ばっしゃーーーーーーーん!!


 ガシャーーーーーーン!!


 バリバリバリバリバリバリ!!



 それは、突然起きた。


 樹齢100年にも及ぶ年季の入った樹木が、次々と無惨にも伐り倒されていった。


 行政の前々から計画されていた大規模開発事業だったのだ。


 無論、人間側で公園の木々の伐採反対運動は起きたのだが、行政側はそれを無視した強行開発実行だった。



 チュンチュン!!ピーピー!!ジャー!!ジャー!!ピーピー!!チー!チー!チュンチュン!!ピーピー!!ジャー!!ジャー!!ピーピー!!チー!チー!チュンチュン!!ピーピー!!


 逃げ惑う小鳥達。


 「何てこった!!」


 「あの時、シジュウカラの警告を信じるべきだった!!」


 「嗚呼・・・わしらの棲みかが・・・」


 こんなに憐れな小鳥達の光景を、シジュウカラのラーソはなす術もなく、虚しい顔をして見詰めていた。


 あの時飛んできた大きな赤い風船は実は、公園の樹木伐採計画反対運動の人間達が持っていた風船であり、木々を守りたい思いがいっぱい詰まって膨らんだ風船が、シジュウカラのラーソが割ったとたんに化学反応して、シジュウカラのラーソに潜在する超感覚視覚に触れ、シジュウカラのラーソの直感的衝動が呼び覚まされ、小鳥達に公園の木々の伐採の危機を訴えたのだ。



 「何でこんな事に・・・」


 シジュウカラのラーソは絶望した。


 「何で人間どもは木を伐りたがるんだろ。俺は何時ども公園を散策してるけど、

 もういつも楽しい風景には戻れないんだ・・・」

 



 ~風船が教えた危機~


 ~fin~

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風船が教えた危機 アほリ @ahori1970

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