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夏生 夕
第1話
今日は、豆子さんのブログが更新された!
思うように仕事が進行せず、行き詰まっていた頃に発見した『豆子日記』。
食べ歩きが趣味という豆子さんだが、3日前のケーキ屋を最後に投稿が途切れていた。
もちろん豆子さんも毎日出掛けているわけではないだろう。それでも一日おき程度には花や風景、お気に入りの雑貨、と日常を写真とともに綴っていた。
それだけにこの無言待機時間は少し心配だった。
しかし今しがた、豆子さんのブログが更新された!
散歩中たまに寄るという、オープンテラスのカフェで過ごしたとのこと。
白くて丸っこいマグカップの隣には栞の挟まれた野々宮佑樹の新刊。柔らかい陽に照らされている写真から、ゆったりとした時間の流れがうかがえる。
飲んでみると意外と苦くなくて飲みやすい、と初ハーブティの感想もある。
ハーブティとは珍しい。
豆子さんは大の甘いもの好きだ。ケーキを食べる時でもココアやフレーバーのついたカフェラテを合わせ、芯から甘くなるような時間を過ごしているのに。
一体何故とスクロールすると、思いがけない一文が目に飛び込んできた。
野々宮先生に会えるのだから、少しでも痩せて綺麗に見えればと数日は節制。
なん・・・
絶句してしまった。
豆子さん、もしやサイン会へ!?
豆子さんが甘いものと同じくらい愛している読書。推している作家の名前が数人ほどブログに登場する。
以前、豆子さんの所感がどうしても聞いてみたくて、意を決してメッセージを送ってみたことがあった。
野々宮先生の作品を読んで、わたしも好きなことを好きだと言える人になろうと思いました。ブログを始めたきっかけです。
ブログ同様に素朴な文章でまとめられた既刊の感想と送られてきた『豆子日記』の原点。
シンプルな言葉だけに、真っ直ぐに胸を衝いた。
「豆」は、野々宮佑樹の初文庫作品『不器用』に登場する散歩犬からとったという。
改めて物語が人に与える影響の大きさに驚き勇気づけられた。豆は私も気に入っているから嬉しかった。
好きなことをまっとうするために、豆子さんは行動する。
足の伸ばせる範囲なら遠出も厭わない行動力がある。
明日は野々宮佑樹、初の握手サイン会が書店で行われるが場所はここ東京なのだ。
豆子さんは、名古屋在住。
「先生。」
しかし豆子さん、どんな姿でもあなたは素敵な人でしょう。
節制なんて健気なこと言ってないで
「野々宮先生。
そろそろよろしいですか?明日の打ち合わせをさせてください。
スマホを置いて。」
顔を上げると無表情で眼鏡を上げた担当編集と、エプロン姿の書店員が席についていた。対極に素晴らしい笑顔だ。
「あ…すいません…。」
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