幼馴染の推しのゲーム実況者。実は僕なんだが。

七野りく

プロローグ

「おはよー駿しゅん! ねね、見て見て!! また、『昼寝猫ひるねねこ』さんが動画上げてくれたんだよっ!!! 今度は、シニゲー? みたい。シニゲーってなんだろ??」

「……お、おはよ、はるか。それ、多分『死にゲー』だと思う」


 朝の通学路。

 会わないよう、普段よりも少し早い時間に家を出たのに、幼馴染に見つかってしまった僕はおずおずと指摘した。

 生まれた病院、幼稚園、小中高、と何だかんだ一緒に過ごしている少女は、携帯を手にしながら小首を傾げる。凄くあざとい。でも――恐ろしく可愛い。

 遥はうちの高校でも有名な美少女なのだ。


「なに、それ??」

「と、とにかく、死んじゃうゲームのこと……」

「ふ~ん。そんな難しいゲームなんだぁ。『昼寝猫』さん、大丈夫かなぁ……あの人、あんまり、ゲーム得意じゃないんだよね」


 そう言うと、遥は薄っすらと頬を染めて携帯を見つめた。春風に、長く綺麗な黒髪が靡く。

 ――『昼寝猫』。

 高校に入って以来、僕の幼馴染がはまっているゲーム実況者だ。

 曰く『何だろう? すっごく、可愛い人なのっ!! ゲームは上手くないんだけど……毎回、一生懸命、一歩一歩進んで行くのを見ている内に、ファンになっちゃったんだぁ。こういうのを押し活! って言うんでしょ? えっへん。また一つ、賢くなっちゃった♪ 駿、褒めて、褒めて☆』。


 こう言われ、動画を見せられた際の僕の気持ちたるや!


 何故ならば、ゲーム実況者『昼寝猫』は――遥が僕の顔を覗きこんで来た。心臓が高鳴る。


「駿? きいてるー??」

「き、聞いてる、よ。た、多分、大丈夫だと思う……。あ、あの人、同じメーカーのゲームもクリアしているみたいだし……」

「! 駿、もしかして、動画見てくれたのっ!?」

「え? あ、う、うん……」


 しどろもどろになりながら答える。

 ……『見る』というか、実際にゲームをプレイし、編集しているのだが。

 僕の気持ちを知らない幼馴染は満面の笑みを浮かべた。


「えへへ~♪ そっか、そっかぁ。じゃあ、今度、うちで一緒に動画を――」

「遥ーおはよ~」


 後ろから声がした。

 振り向くと、クラスメイトの小柄な女子生徒が跳びはねている。

 僕は早口で遥に話しかけた。


「じ、じゃあ、さ、先に行くね」

「え? 駿??」


 幼馴染の戸惑った声を聞きながら、僕は歩を早めた。

 ……一緒に動画を観るだって?

 ずっと好きな女の子にそんなことをされたら、流石に羞恥で死んでしまう。


 ――ゲーム実況者『昼寝猫』は何をかくそう、僕、花咲駿はなさきしゅんなのだがら。


※※※


「あーあ……今日も逃げられちゃったなぁ」


 そそくさと、逃げて行く幼馴染の男の子の背中を見つめつつ、髪を押さえた私は呟いた。

 携帯を仕舞い、溜め息。


「……やっぱり、搦め手じゃ駄目なのかなぁ?」

「? どしたの?? 難しい顔しちゃって。あ! もしかして、また例のゲーム実況者さんの話??」


 高校入学してすぐ友達になった三枝舞花さえぐさまいかが、追いついて来て、私の顔を覗きこむ。

 ……とってもニヤニヤしている。小っちゃくて可愛いけど。

 思わず頬を軽く摘み、唇を尖らす。


「そー。鈍感度MAXな幼馴染兼ゲーム実況者さんを、どうやったら振り向かせられるかを考えてた、のっ!」

「簡単だよ~。告っちゃえばいいじゃんっ! 遥なら、一撃必殺っ!! 過剰攻撃オーバーキル間違いなしっ!!!」

「…………『生まれた時から、ず~っと一緒な幼馴染の声が分からないだろう認定されてる女の子』でも?」

「――……あはぁ」

「あはぁ、じゃないでしょぉぉっ! この、このぉ」


 舞花の柔らかい頬をちょっとだけ引っ張ると、少しだけ心が晴れた。

 手を離し、意気込む。


「うんっ! やっぱり、まずは外堀を全部埋めて、内堀も全部埋めてからにするっ! 」

「――で、その心は?」

「一々反応が世界で一番可愛いし、ニヤニヤ出来るからっ! あと――私が、って知った時の顔を全力で堪能したい」

「うわぁ……」


 快活な舞花が身を引き、顔を引き攣らせる。

 けれど、私は全く持って怯まない。


 生まれた病院も幼稚園も一緒。

 小中高と学校もクラスも一緒。


 幼馴染でも『高校生になれば離れる』と言われてきたけれど、私にそんなつもりは毛頭ない。学校でも話せて、動画でも声が聴ける。最高だ。

 舞花に片目を瞑る。


「だって――彼を推すのが、生まれた時からの私の生き甲斐なんだもん☆ うふふ、何時気付いてくれるか、楽しみ♪」

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幼馴染の推しのゲーム実況者。実は僕なんだが。 七野りく @yukinagi

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