だから、ポルテは今日も荷を背負う~封印迷宮都市シルメイズ物語~
荒木シオン
だって憧れのそばにいたいから……。
幼い頃、絵本で読んだ
いつの日か、私も彼らのように
けれど、現実はいつだって
探索者に必要な多くのものが私には足りなかった……。
剣に弓、魔術の才能は
そんな私が探索者として彼らの仲間になれるわけもなく……。まして、
だけど、それでも
探索者たちのそばにいたい。彼らと一緒に迷宮へ挑みたい……。
大金や地位に名誉を得たいとは言わない。そんなモノはどうでもいいから、幼い頃に読んだ絵本のように、憧れた彼らの
だから、私は探索者を諦め……彼らをサポートする『
ここは
その街で、私は今日も荷物を
★ ★ ★
「はぁーい、それでは! 以前からの予定通り、今日は迷宮の第十四階層・Nの一区画を探索しまーす!
封印迷宮シルメイズの北口広場。
頭の左右に
それに
青い
魔女のシエルさんは
彼らから一歩引き、
「元気ないなぁ~! ようやく
仲間たちのテンションが低いことに
けれど、
さておき、彼女が仲間たちにお
バックパックの中には大小様々な箱が全部で二十五個ほど……。
この箱は全て収納系の特別な
ただし、重量のほうはほぼ箱の重さのみのモノから、収納した品の半分など、性能がまちまちなので、なにをどの箱に入れるかがいつも悩みの種だったりする……。
まぁ、大体の場合、最大容積を誇り重さもほぼなくす箱に、大量の飲用水を入れるのだけど……。
あとは
う~ん……でも、やっぱり、武器はもう少し取りやすい位置に
くっ……こんなことなら新しいバックパックを
などと箱の中身を確認しつつ、一人で配置場所に頭を抱えて
「ポルテ~? そろそろ帰っておいで~? キミ、悩み始めると箱の中身を全部入れ
どこか
「いやぁ、しかし、
シャッシャッシャッ! と大きく口を開け眼を細める蜥蜴人のレザル君。
うんうん……キミはもう少し
「レザ、うるさい……。あ、ポル……
彼を横目に見やり
う~ん、これは多分、取り出しやすい位置にあったほうがいいから……外ポケット? いや、でも大事なモノのはずだし、内側のほうが……悩む。
けれど、これ以上待たせるわけにもいけないので、自分の
「ポルテ~、またそのおまじない~?」
「まぁ、銅貨一枚で探索の安全が買えるなら安いですからね」
迷宮の大穴へ小銭を投げ入れたら、その日の探索は無事に終わる。
誰がいつ始めたか
明らかに気休めだと理解しているけれど、一度始めるとなかなかどうして、やらないと不安になるので、人間というのは不思議なモノだ……。
そのせいか、最初はからかっていた仲間たちも、今では私が小銭を投げ入れるのを待っていてくれる。
よしっ……今日の探索も無事終わりますように……。
★ ★ ★
北口の受付に書類を提出し、迷宮へ続く横穴に入る私たち四人。
先頭からレザル君、ユフィー、シエルさんと続き、荷物持ちは最後尾。
この横穴、意味ありげな様々な紙が貼られ、短剣や釘なども
ちなみにここの品々を
以前、私も探索の無事を
そうして多くの人の様々な思いが重なった横穴に見送られ、私たちは封印迷宮シルメイズへ足を
★ ★ ★
迷宮に入って約二時間。
私たちのパーティは普段よりもかなり早いペースで目的の第十四階層に到着したのだけど――、
「おかしい! 絶対におかしい!!」
――ちょっとした問題が発生していた。
というのもこの階層に到達するまでに、迷宮生物とほぼ
迷宮生物、その名の通りこの封印迷宮にのみ生息する
その
「ねぇ~、レザル~。
「のはずですがなぁ~。さてはてどうしたことか……我にも分からぬ」
赤頭巾はここ
けれど、その赤頭巾もつい先日、探索者のチェルカに
「ユフィ、もしかしたら……、
首を
するとあーっと、ユフィーは天を
それで私もある
つまり、赤頭巾がいなくなったことで、今まで活動を休止していた探索者たちが一気に迷宮へ
結果、迷宮生物は再び狩り尽くされ、その他財宝や資源も取り尽くされたと……。
「ダメダメじゃーん! あぁ、もういいよ、いいよ、
深い
で、まぁ、こういうこともあるよねぇー、と
「ユフィー! 岩陰に誰か倒れてる!」
迷宮内で他の探索者への
私たちは周囲を
「いや、これは死んでるでしょ……」
「で、あろうなぁ……」
「
――倒れていた男性であろう探索者は背中が大きく
「う~ん……一応、
顔を
認識票、タグは探索者協会所属の探索者および関係者へ配られる、個人識別用の金属プレートだ。
協会へ属さずに迷宮を探索することは違法ではないが、認識票を持たない探索者はモグリ
さておき、その認識票があるということは少なくとも真っ当な同業者なわけだが、
「どうするんですか? 回収していきます?」
問いかけにユフィーは肩を竦め首を振る。
「いや、放置で。首の認識票が一枚しかないから、すでに誰かが協会へ報告してるよ。もうこれは『骨拾い』たちの案件だ。私たちが手を出すべきじゃない」
そう言って彼女は遺体へ手を合わせ終えると、迷宮の出口へと向かって進み始めた。探索者はいつだって死と隣り合わせ……それを改めて心に刻む。
★ ★ ★
地上に戻って夜。
私は拠点にしている宿屋でバックパックと収納箱の点検をしていた。
いつ、なにが起こるか分からない迷宮探索。日々のチェックがなによりも大切だ。
仲間たちのような探索者に、私は決してなれないけれど、そばにいるための努力は怠らない。大事な荷物を預けてくれる、その信頼に応えるために……。
明日も明後日も精一杯荷物を背負うんだ。
だってそれが、小さい頃に憧れた探索者へほんの少しでも近づく唯一の道だから……。
……to be continued?
だから、ポルテは今日も荷を背負う~封印迷宮都市シルメイズ物語~ 荒木シオン @SionSumire
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