死神の推し
かさごさか
だから深入りはしないように、と言われてたのに。
私はよく推しが死ぬタイプのオタクである。ラノベでも漫画でもアニメでも、ちょっとでも顔が好みだなと思ったキャラは大体、最終話を迎えられずに退場してしまう。
先日も友人から週刊誌で連載中の作品の布教を受けており、
『この子の顔、絶対好きだよ』
と見せてもらったイラストと合わせて性格や過去などの設定も軽く教わった。友人から送られた情報を総合した結果、「推せるな・・・」と返信して、その日はお開きになった。
その最新話で推し候補になっていたキャラが死ぬとは誰が思うだろうか。
あまりの突然死にSNSも騒然となり、本誌どころか一話の試し読みもしていない私の元に訃報が届くことになった。読む前から壮大なネタバレを食らってしまったな、とスマホを鞄に仕舞った。少し下唇を内側に引っ込めた。
私のようなタイプは界隈で【死神】と呼ばれる。
布教を受けたあの日以来、友人は気まずいのかその作品の話題を振ってくることはなかった。それはそれで少し寂しかったが沼に片足を突っ込む前だったので負傷せずに済んだのは幸いだろう。
何の前触れもなく死ぬキャラがいるように、最悪というモノは突然やって来る。
事前登録から応援していたゲームが終わることになった。公式からサービス終了の案内が出てしまった。主人公が仲間と切磋琢磨し成長していく王道青春ストーリーで、誰も死ぬ要素がなくてかなり気に入っていたのに。
毎日ログインしていたし、微々たる額だが課金もしていた。グッズが出ればコンプリートするまで買い集め、ユーザーアンケートには毎回、問題点だけではなく改善点も添えていた。確かに、周囲でプレイしている人はいなかったがSNSを見れば仲間はたくさんいた。それでも周囲への布教も一時期は考えており、勇気を出してさりげなく話しかけてみれば、
「ねぇ、中島さんってゲームやる?」
「やりますけど・・・パソコンで、が主ですね。ソシャゲはあまり」
この結果だ。同僚の一人に声を掛けて挫折したので、私に布教は向いてないと実感した。
閑話休題。生きる理由にもなりつつあったゲームがサービス終了することになった。
定期的に配信してくれるスタッフトークも好きだった。微々たる額だが投げ銭もしていた。公式アカウントを運営している中の人もちょっと抜けた所があって親近感があった。
あまりの悲しみに日付も変わろうという時間にも関わらず友人に電話を掛けてしまった。どれだけ好きで好きで、毎日が楽しかったか。深夜、電話越しに泣きながら「なんで、なんで」と繰り返す私の話を友人は静かに聞いてくれた。
『とりあえず落ち着きな? ほら、深呼吸~』
「ズゥーーーーッ、ヒッ、どうしよう・・・ズッ、スタッフさん達にも会えなくなっちゃう・・・」
『スタッフ?』
「公式で生放送、してて・・・ウエッエッ、声優達と一緒にトークしてるのも好きだったぁ・・・」
『・・・』
楽しかった記憶が思い出され、再び目の奥が熱くなる。友人からの応答が途切れ、寝落ちしただろうかと思った時、『それさぁ』と彼女は言葉を続ける。
『先に謝っとくね、ごめん。で、それさ、アンタが運営を推しって思ったからじゃない・・・?』
「へ」
予想外の発言に涙も息も止まる。
『運営ごと推して・・・ってか好きだったなら、そりゃ死ぬよなあって思ったんだけど・・・もしもし? 聞こえてる? おーい』
死神の推し かさごさか @kasago210
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます