ただ救う、だけではいけない
「すみません……。お金を貸してくれる場所はこちらでしょうか?」
私の仕事が大きな波乱もなく、数週間が過ぎた頃にその親子は訪れてきた。
そして、見た瞬間にはっきりと分かった。救わねばならない存在だと。
母、子ともに貧しい服装だった。ところどころが破れ、洗濯も長いこと行えていないのだろう。入浴もしていないのか、臭いが漂ってきた。
「ええ、ここが金貸し屋です。話をお聞きしましょう。その前に入浴を。そして、洗濯をして差し上げましょう。さあ、こちらへ」
まずは、身なりをキレイにするのが先決だ。二人とも、それができないほどに困窮しているのは確実であろうから。
「ありがとうございます。体と服をキレイにしたのはずいぶんと昔のことでした。周辺の人々はわたしたちに近づこうともしてくれませんでした。臭いを嗅ぎたくないことは分かっておりましたが、どうしようもなく……」
母が私にお礼を述べてきた。礼儀正しいお方のようだ。
「お気になさらず。本題に入りますが、お金はいくら必要でしょうか?」
「実は、これぐらいの金額が必要なんです」
母は貸してほしい金額と、その利用内訳を渡しに話してくれた。
貸せない額ではなかった。しかし、伝えなければならない事実があった。
「お母さま。熱意は十分に伝わりました。あなたは息子さんに高等教育を受けさせて、将来は立派な仕事に就いてほしい。素晴らしいお考えです。ですが、提示されている金額では、その願いは到底叶いそうにないのです」
「そうなんですか」
「ええ、ケタがいくつか足りないのです」
「そんな……。これ以上、借りることはできません。返せなくなりますから」
私は内心、悩み続けていた。
正直に言って、ケタが足りない額であっても、この母には返せそうな気がしなかったのだ。提示した金額から察するに、教育費用がどれ程かかるのか知らないのだろう。
しかし、私がこの提案を断れば、二人は路頭に迷い、死んでしまう可能性が高い。
下手をすれば、数日後に生きているかさえ断言できないのだから。
決断した。この二人を救おう。
私以外に救おうと試みる者は現れそうにないのだから。
人を救い、救われて 荒川馳夫 @arakawa_haseo111
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