アイドルに推される不良で落ちこぼれのオレ

オレンジ5%

第1話 

「あなたは私の推しなんです」

 クラスのアイドルにそう言われたときは驚いた。オレはクラスの不良、落ちこぼれだったからである。

 驚きながらも、オレは彼女にこう言った。

「嬉しいな」

 彼女もまた、オレの推しだった。少なくとも、「推し」ではあった。


 小畑すももの存在を初めて知ったのは高校に入学したばかりのときだった。初めて教室に入ると彼女の話で持ちきりだった。クラスにアイドルがいる、と。

 この「アイドル」というのは比喩表現としての意味ではなく、本当に職業としての意味だった。同じクラスになったすももは、学生のアイドルグループの一人として活動していた。

 オレは、はじめは彼女を好きになれなかった。確かに、彼女は明るくかわいいし、人に優しく、勉強もできる。文句なしの優等生キャラだ。だけどオレは、そんな彼女にどことなく胡散臭さみたいなものを感じていた。だから、好きになれなかった。

 心境が変わったのは、文化祭の時だ。文化祭の特別ステージで、彼女がアイドルとしてグループで歌い踊る姿を初めて生で見た。

 それはそれは下手な歌だった。ダンスはマシだったが、歌は下手だった。どこが一番下手に感じたかというと、彼女自身、本当は自分の歌に自信を持っていないのが見え透いているところだった。無理して表面上は自信満々に歌っていたが。

 こんなグループの歌、聴く価値なんかないな。

 オレはそう思った。早くステージの前から立ち去ろう。そう思った。

 なのに、足が動かない。彼女から、目が離せない。

 なんでだ。

 こんな感情、今まで誰に対しても抱いたことなかった。

 この時から、小畑すももは、オレの推しだった。少なくとも、「推し」ではあった。


「嬉しいな」

 俺がそう言うと、すももは真っ赤になった。そんなすももに、自分の気持ちを伝えるチャンスとばかりにオレはこう言った。

「あんたを推していたから」

 すももは驚いたように目を見開いて、その後、微笑んだ。オレたちは、微笑み合った。

 こうしていつまでも笑っていられたらいいのにな。その時オレはそう思った。

 

 でも、その後オレは知ることになる。

 彼女にとっての俺という「推し」への感情と、オレの彼女への感情は、全くもって別物だってことに。

 すももが、今日の昼休みもオレに話しかけてくる。

「みつきちゃん、あたし今日お弁当忘れたから購買行くんだけど、みつきちゃんも行く?」

「ああ、あたしも行くよ。」

 

 そう、オレは、みつき

 オレがどんなに彼女に恋い焦がれても、きっと届かない。

 だってオレは、女だから。


 

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