【KAC20222】お題「推し活」 ダンジョンソロ攻略の果て

テリヤキサンド

ダンジョンソロ攻略の果て

ダンジョン攻略、それは数々の罠かいくぐり、並みいるモンスターを倒し、最奥の宝を手に入れる冒険者達の夢。

そんなダンジョンの最下層に挑む一人の青年がいた。


罠を巧みに見極め、幾多の戦いを経験し、報酬の宝で強化したその姿は魔王に立ち向かう勇者のようであった。

そして、今、彼は最後の扉の前に立つ。

彼は覚悟を決めて、その扉を開け放つ。

扉の先には広大な空間だ広がっており、その奥にはダンジョンコアと呼ばれるダンジョンの核が鎮座している。

そのダンジョンコアの前には玉座があり、一人の美女が座っていた。


 「あなたがこのダンジョンの主ですか。」

 

 「ええ、私がこのダンジョン『帰らずの迷宮』の主、ミルと申します。ここまで来れたのはあなたが初めてです。他の方々はそこまでの実力がなかったようですからね。」


 「俺が最初か、光栄だね。あ、俺からも名乗ろう。俺の名はイカロス。にしても俺が最初って、それほどに難易度が高いのか。」


 「はい、それがこのダンジョン『帰らずの迷宮』の由来ですからね。幾多の冒険者が挑戦してきましたが、あなたは一人でここまでやってこれたことに私は感激しております。なので、ここで朽ちていくのが残念であります。」


玉座から立ち上がり、両手を構えたミルから空間をゆがませるほどの魔力を放出する。

その様子に身構えると思えた青年は特に反応せず、そのまま話し出す。


 「戦う前に話をしないか?」

 

 「話ですか?・・・ええ、ここに来る方もいないですし、いいですよ。」

 

 「じゃあ、話すぞ。俺はここにパーティで入っていったんだが、役割は荷物持ちだった。

他の三人はモンスターを一撃で屠れるほどの技量があるのに、俺は一撃も与えられないどころか、反撃されて死ぬかもしれないと思うほどだった。

そう俺はパーティのお荷物・・・。三人に罵倒されながらもダンジョンの攻略は続き、このまま攻略できるのかと思った時、うかつにも転送の罠を発動させてしまった。

転送された先にはこれまでとはくらべものにならないほどのモンスター、ドラゴンがいた。

そして、転送された先には出口がなかった。

この窮地を脱するには俺の持っていた転移結晶のみ、だが、発動させるのは時間がいる。

時間稼ぎが必要だった。

そして、その時間稼ぎに選ばれたのは俺だった。

あいつらは俺に魔物寄せポーションをぶっかけて、風の魔術で俺を壁へとふきとばした。ドラゴンは魔物寄せポーションのせいで俺に注意を向け、その間にあいつらは転移結晶で逃げた。

俺は必死に逃げて、運よく空いていた穴に逃げ込んだ。

少しでも遠くへと思い、その穴を進んでいくといき止まりに宝箱があった。罠にしかみえなかったが、どっちみち、ここまでしかこれなかったのだから、ここで開けて終わってもいいかとあきらめながら開けた。

そこにあったのは一振りの剣。普通なら警戒はするだろうが、もうそんな心配している気は起きなかった。

迷わずにその剣を手に取る。

するとその剣の情報が俺の頭に入ってくる。


 ドラゴン特攻の剣、ドラゴンキラー。


こんなおあつらえ向きの武器がなぜ、ここにあるのか?

そんな疑問が頭によぎるが、これにすがるしか生きる道はない。

俺はいちかばちかこの剣にかけてみることにした。

穴を抜けるとドラゴンが穴から離れ、おとなしく待っていた。

俺を見つけるとさきほどの魔物寄せポーションの影響で凶暴になっていたとは思えないほどに冷静な態度で、こちらに対し戦いの構えをしてきた。

そこからは激戦だった。噛みつき、爪、しっぽの攻撃を剣で防ぎつつ、タイミングを見て反撃、こちらが段々と慣れていくとあちらの攻撃も熾烈になり、どちらが先に倒れてもおかしくない程だった。

最後の一撃を繰り出す時にはどちらも満身創痍だった。

渾身の一撃を互いに放ち、最後に立っていたのは俺だった。」


 「それはそれはまさかの英雄の誕生とも言える話ですね。感動いたします。」


 「まあ、創作にしか聞こえないような話だな。まあ、まだ続きがあるんだがな。

ドラゴンを倒した俺はそのドラゴンを解体し、その肉を食べることで強靭な肉体を手に入れた。

その後、ドラゴンを倒した後に出現した転移の魔法陣に乗り、他の空間へと転移した。

転移した先はダンジョンの通路、上にも下にもいける。

そこで俺はどちらに行くか迷った。

ドラゴンを倒した証明を持って、地上に帰還するか。それとも最深部を目指すか。

俺は最深部へと向かう道を選んだ。

そこからは罠を見極め、立ちふさがるモンスターを倒し、宝箱に罠がないか注意しつつ、その中身で己を強化していった。

その間に俺を見捨てたパーティの痕跡も発見したが、もう手遅れだった。そこにあったのは特徴のある体の一部だけだったのだから。

俺はその死体を見て、怒りを感じることもなく、むしろ、次は俺の番になるかもしれないと気をしめなおし、この最下層へとたどり着いたワケだ。」


 「最下層までのその努力、称賛いたしますわ。後はこの私を倒せば、あなたはこのダンジョンの初踏破者になるでしょう。さあ、始めましょうか?」


 「いや、まだだ。」


 「もう話は終わったのではなかったのでですか?あなたの望みはダンジョンの踏破。それ以外に何があるんでしょうか?」


 「ああ、俺の望みは一つ・・・。君にありがとうが言いたかった。」


 「は?何を言っているんですか。私はあなたの敵ですよ。」


 「敵ね、敵が気づきやすい罠を配置してそこから段々と罠を巧みにしていって、ほとんどの罠を見抜けるようにしてくれるかな?

モンスター、宝箱もそうさ、強敵の前にはそれに適した宝が配置されていて、死ぬようなこともなく、自分を鍛える訓練のようにみえる戦い。誰かが細工しているとしか思えない。」


 「グッ!?」


 「そして、そんなことができるのは最深部にいる君しかいないってことさ。」


 「そうだとして、私はあなたの敵ですよ!戦うしかないじゃないですか!」


 「俺の敵は君じゃないよ。むしろ君の敵が俺の敵さ。俺はここまで来て、自分の気持ちに気づいたよ。君と一緒にいたい。」


その言葉に口説かれたこともないミルは顔を赤くして魔力を霧散させる。そのうちにイカロスは一瞬でミルに詰め寄り、その腕にミルを包み込む。


 「君が俺をこんなにしたんだ、責任をとってもらおうかな?」


イカロスはニヤリとミルに笑いかけた。


この話はダンジョンの主が一人の青年を推しとして成長させるはずだったのに伴侶になってしまった物語。

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