第45呪 俺は中二病に呪われている💀


 そこには蛇とライオンとサソリが合体したような化け物や、上半身が人で下半身がライオンというケンタウロスの亜種みたいな化け物など、見たことモンスター10体以上並んでいた。


「クソッ、新手か!! ウルティ――」


 ユウマが究極を超えた拳ウルトラアルティメットパンチを放つ構えを取ったところで、化け物たちの奥で手を振っているミサキを見つけた。


「ユウマ! 待って、待って。この子たちは大丈夫だから」

「ミサキ!? なにやってんの!?」


 ポン! ポン、ポン! と音を立てて、化け物たちが煙のように消えていく。


「えーっと……どゆこと?」

「手が足りないなって思ったから、女神の力で呼びだしたの」

「女神の力で? 化け物を?」


 闇の塊が分散したのは、この化け物たちから本体を守るためだということはユウマにも理解できた。


 しかし、どう見てもモンスターにしか見えないこの化け物たちと、女神の力がユウマの中で結びつかない。


「怒りで化け物を産み出した女神とか、化け物を眷属にしている女神とか、まあ色々な女神がいるのよ」

「え……。女神って怒ったら化け物生んじゃうの?」

「そうよ? 女の怒りは怖いんだから」


 笑顔で脅迫じみたことを言うミサキに、ユウマは乾いた笑いを返すのが精いっぱいだった。


「ねぇ、ユウマ。あの奥って扉かしら?」


 ミサキの指し示す方を見ると、確かに扉らしきものがあった。

 扉の方からドンドン、と叩く音がする。


「だいかおっとね!?」

(だれかいるのか!?)


 間違いなく、人の声。

 ユウマとミサキは顔を見合わせて扉の元へと走り、扉を開け放った。


「大丈夫ですか!?」

「うおぉっ! びっくいした! すごか格好ばしとんさっけん……」

(うおぉっ! びっくりした! すごい格好をしていらっしゃるから……)


 扉から飛び出してきた男は、ユウマを見るなり後ろに飛び退いて尻もちをついた。


(良かった……生きてた)


 父の姿を確認して、ユウマはひとり胸を撫でおろす。


 奥にも人が倒れているのが見えた。

 数人という規模ではない。数十人、いや百を超えるかもしれない。


「ユウマ。セイジさん達を呼んできて。私は出来るだけ介抱してみる」


 ミサキは倒れている人達に駆け寄り、女神の力を解放する。


 ユウマの姿を見たセイジ達は、ユウマがボスを倒したことを喜び、被害者の話を聞いてすぐさま介抱に駆けつける。


 衰弱して倒れている人達に何が出来るわけでもないが、セイジ達は一生懸命声を掛けて回った。


 ユウマは正体を隠したまま、唯一意識の有った男――ユウマの父――に捕まっていた。


「兄ちゃんな、なしてブレイカーばしよっとね?」

(兄ちゃんは、どうしてブレイカーをしているんだ?)


「さあ。なんかやめられんかっただけです。でも、やめんかったから皆さんを助けることが出来たんで……結果、良かったです」


 いつもより気持ち低く声を出すことを意識して、正体がバレないように気をつけているユウマだが、父の方言に釣られて、共通語と方言が混じったおかしな喋り方になっていることには全く気付いていない。


「そいぎん、人ばたすくっため?」

(それなら、人を助けるため?)


「いやいや。そんな大層なもんやないですよ。多分、ぜんぶ自分のためで、その過程で人が助かってるだけやと思います」


「そがんね」

(そうか)


 男の親友がダンジョンへと飛び込んだ時、彼は何を考えていたのだろうか。


 きっと死ぬつもりは無かったはずだ。


 成功すれば、地元の英雄になれると思ったからかもしれない。

 男に恩を着せられると考えたのかもしれない。

 ただ男とその家族を守りたいと思ったのかもしれない。


 それは本人にしか分からないし、今となっては知る術はない。


 男は親友の気持ちを勝手に推し量り、英雄視し、嫉妬していた。

 しかし、そんな当て推量こそがおこがましい行為だったのかもしれない。

 


 間もなくしてダンジョン化現象は収束し、黒い霧も晴れていった。


      💀  💀  💀  💀


 女はずっとテレビを見ていた。

 夫が巻き込まれたと思われる事件の生中継を、画面にかじりつくように見ていた。


 つい10分ほど前だろうか。

 リポーターがにわかに慌てだした。


 黒い霧が消えていく様子が、中継映像でもハッキリ分かった。


「出てきました! この未曽有の大事件、肥大化するダンジョンをブレイクしたクイックラッシャーのブレイカー達です!!」


 ダンジョンに突入したと思われるブレイカー達が、大勢のカメラと記者に囲まれている。


 夫と息子の姿を必死で探すものの、なかなか見つけられずヤキモキしていた。


「急いで救急車を呼んでくれ! 意識が無い人が沢山いるんだ!!」


 群がる記者を押しのけて、赤いキラキラした鎧を身に着けた男のが声を張り上げている。


 その後方、他のブレイカーの人達とも違う変わった服装のブレイカーの背に、夫の姿を見つけた。


「あなた! あなた!!」


 その声がテレビの向こうに届くはずが無いことは当然分かっているが、声を掛けずにはいられなかった。


 背負われているということは、生きていると考えても大丈夫だろう。


 それでも、怪我をしていないか、なぜ背負われているのか、と心配のタネは尽きることがない。


 ブレイカーに被害は無い、とリポーターが発表していた。

 息子の姿は見えないが、きっと無事なはずだ。


 そのとき、女はふと、あることに気がついた。


      💀  💀  💀  💀


「ほら、俺は正体隠すって条件っすから」

「ユウマが行くなら、私も……」


 ユウマとミサキはメディア対応をセイジに丸投げしてその場を逃げ出した。

 その足でふたりはいつものようにAmakusaへ向かい、ロックグラスを鳴らす。


 昨晩は途中で解散になったため、ふたりとも今日は心ゆくまで飲むつもりだ。


「それにしてもあのときのユウマの顔は傑作だったわ」

「そういう言い方はどうかと思う」


 大いなる災厄『嫉妬』にウィークポイントを責められて、ミサキに幻滅されたのではないかと不安になっているときのことを、ユウマはいじられていた。


「あのときは本当に心折れそうだった。アイツの言葉は異常なくらい不安感を刺激するんだよ。むしろミサキがなんで平気なのか知りたい」


「あれはきっと女神の加護ね。基本的に女神って自意識が高いから、あの手のネガティブ精神攻撃には耐性があるみたい」


「ずっりぃ。つか、ナイドラは耐性ないのかよ」

「ナイドラはほら……攻撃特化だから」


 どうやら攻撃力9999の代償は、物理的にも精神的にも防御力が紙ということらしい。


「ユウマがグローブのことをそんなに気にしてたなんて知らなかったわ」

「いいだろ、その話は」

「グローブなんてしてなかったときから、ユウマは私のヒーローだったのに」

「え?」


 ミサキが初めてユウマに命を救われたのは、ノワールサイクロプスが現れた大規模ダンジョン攻略でチームが潰走したときだ。

 あの頃のユウマは、まだ邪龍のグローブに呪われる前だった。


「なーんでもない。あ、ほらユウマ、スマホ鳴ってるよ」


 驚いた顔をしているユウマのすぐそばで、彼のスマートフォンがブンブンと振動していた。


 画面に表示されていたのはユウマの母親の名前。


 ユウマはいつものように、スマートフォンを片手に店の外へと出て行く。


「さっき病院から連絡んあったとばってん」

(さっき病院から連絡があったんだけど)


 父のことだ、とユウマは息を飲んで続きを待った。


「お父さんな命に別状はなかって。すぐに退院でくっていいよんさった」

(お父さんは命に別状はないって。すぐに退院できるって言ってた)


「はあぁぁぁ。良かったぁ」


 父は意識もハッキリしていたし、比較的軽症であることはユウマも分かっていた。

 それでも医師からのお墨付きを貰えるまでは「もしかして」という不安が拭えない。


「そいばってん、あんたはどこにおったと? テレビは見よったとけど見つけられんかったもんね」

(それはそうと、あなたはどこにいたの? テレビは見ていたけど見つけられなかったんだよね)


「んー、端ん方におったっちゃなかかな」

(んー、端の方にいたんじゃないかな)


「そがんね。まあ、あーたも無事でほんに良かった。……そがんいえば、お父さんば助けてくいた人んことは知っとっと?」

(そうなのね。まあ、あなたも無事で本当に良かった。……そういえば、お父さんを助けてくれた人のことは知ってるの?)


「え!? えっとー。だいんことかなぁ?」

(え!? えっとー。誰のことかな?)


 まさか自分だとは言えず、ユウマはしらを切って乗り切ろうと図る。


「あんちょっとおかしか格好ばしとった人さ。あん格好、なんか見たことあっち思うたら、あーたん中学んときの服とよう似とっ――」

(あのちょっと変な格好をしてた人よ。あの格好、なんか見たことあると思ったら、あなたが中学の時の服とよく似て――)


「ごめん! 電波ん悪かごてよぉ聞こえん。また電話すっけん! そいぎんまた!」

(ごめん! 電波が悪いみたいでよく聞こえない。また電話するから! それじゃまた!)


 ユウマは慌てて通話をオフにすると、大きく息を吐いた。


「急になんてことを言いだすんだ……」


「なるほど。ユウマは本当はああいう服が好きなのね」

「ちがっ、あれは中学のときの話でっ……ってミサキ! また盗み聞きして!!」


 コッソリ背後に立っていたミサキが、さらにユウマをからかう。


〔 貴様も良い趣味をしていたのだな、見直したぞ 〕


「おまえもうるさい!」


 ここぞとばかりに乗っかってくるナイドラ。


〔 わらわもこの娘にもっとかわいい服を着せたいのぉ 〕


「え゙!!??」


 さらにこれを好機と、自分の好みの装備をミサキに期待する女神。


 ユウマとミサキと、邪龍と女神のダンジョン無双はまだまだ始まったばかりだ。




      【了】




―――――――――――――――――――――――

『攻撃力9999の呪われたグローブ💀は最強です ~中二病の邪龍とダンジョン無双~』


「高坂ユウマと中二病の破壊神」はいかがでしたでしょうか。

 この作品は以上を持って完結となります。


 ざっくり10万字、ライトノベル1冊分。

 最後まで読んで頂けて大変光栄です。


 本作を気に入って頂けた方はもとより、次作も頑張れよ、という方にも是非★〜★★★での評価を頂けると嬉しいです。


 どうか応援のほど、よろしくお願いいたします。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】攻撃力9999の呪われたグローブ💀は最強です ~中二病の邪龍とダンジョン無双~ 石矢天 @Ten_Ishiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ