第44呪 うなる人面柱は呪われている💀


「さて、殴りに行きたいのはやまやまなんだけど……どこにいるんだか」

「全方位殴ればさすがに当たるんじゃない?」

「天才かよ」


 ミサキのアドバイスに従って、ユウマは正面に一発、やや右に射角をズラして一発、とあらゆる角度に究極を超えた拳ウルトラアルティメットパンチを打ち出した。


 やはり不思議な力が働いているのか、その辺のダンジョンのように壁が崩れるようなことはなかった。

 

 ぶつかった音もしないことから察するに、衝撃を吸収する構造になっているのだろう。


 ボスも衝撃を吸収するタイプだったら……という不吉な考えがユウマの頭をよぎったが、とりあえず今は考えないことにした。


「なかなか当たらないわね。じゃあ、つぎはもう少し右にズラして……はいっ」


 通算15度目のウルトラアルティメットパンチが飛んでいく。

 ついにドォンと打撃が着弾した音がした。


「ナイショッ!!」


 ユウマとミサキは空いている方の掌をパチンと合わせてハイタッチすると、再びさきほどと同じ角度で一発。さらに一発。オマケにもう一発。


 ドォン、ドォン、ドォン、と心地よいヒット音が暗闇に響いた。


 ――おおおおおぉぉぉおおおおぉぉぉ


 ヒット音がした方向から、唸り声のような咆哮が聞こえた。


「良かった。ちゃんとダメージも入ってるみたい」

「そだねー。でもなんだかお声がご立腹」


 大いなる災厄とやらが『ご立腹』するのかどうかは分からないが、ウルトラアルティメットパンチが連続ヒットしたことに反応があったのは良い傾向だ。


 それは打撃が効いていることの証左に他ならない。


 ――おおおおおぉぉぉおおおおぉぉぉおおおおおぉぉぉ


 途切れることなくなり続ける唸り声。


「あれ? ちょっと明るくなった?」

「あら、本当ね」


 部屋全体を覆っていた闇が、部屋の入り口側から引いていく。

 闇は消えているのではなく、部屋の奥の方へと移動していた。


 集まった闇は直径1メートルほどの球状の塊となった。

 と、同時にこれまで姿を隠していたナニカが姿を現す。


 ナニカは部屋の床から天井まで伸びた柱だった。

 柱にはいくつも人の顔がくっ付いていて、こういうのホラー漫画に出てくるよね、という風情があった。


 キャプテンアイパッチで向上した視力と持ってすれば、ユウマには柱にくっ付いている顔の表情までハッキリと見える。


「「気持ち悪い」」


 ユウマとミサキは声を揃えて言った。

 それ以外の感想が出てこなかったともいえる。


「とりあえず、もう一発いっとくか」


 ユウマは再び拳を構え、気味の悪い人面柱に向かってウルトラアルティメットパンチを放った。


 しかし、その飛ぶ拳撃は人面柱に届く前に、闇の塊に吸収されていった。


「なるほど。そういう感じね……。ねえ、ミサキさん? 俺ちょーっとヤな予感がするんですけど?」

「あら、奇遇ね。私もよ」


 そう言うと、2人は左右別々の方向へ飛び退いた。

 ドォンという着弾音。


 2人が元いた場所に、闇の塊が吐き出した拳撃が直撃したのだ。


「攻撃を吸収して、跳ね返す的なヤツか。闇の塊、ちょっと優秀だな」


 飛び道具が撃ち辛くなった。


 天を滅ぼす息吹ヘブンスデストロイブレスだとどうなるのか気になるところだが、もし跳ね返されたら、と考えると「よし、試してみよう」というわけにもいかない。


 ユウマは攻撃力には自信があるが、装甲には自信が無い。というか分からない。


 どれもこれもボスドロップで拾った未鑑定品で、防御力がどれくらいかも知らない。


「どうしよっかなぁ」

「そんなの、直で殴るしかないでしょ」

「ですよねー」


 左側から近寄ってみる。

 闇の塊がススっとユウマの方にポジションを変える。


 一度戻って、今度は右側から。

 闇の塊は右側へとポジションを変える。


「いやいやいや、ミサキさん。これは近寄れませんよ」

「でも攻撃してくるわけじゃないわよ」

「とりあえず突っ込め、と」


 ミサキがコクリと頷いた。


「大丈夫。ちゃんとサポートするわ」

「仲間の力を信じますよ、と」


 ユウマは意を決して人面柱へと近づいていく。

 闇の塊がユウマとの距離を少しずつ縮める。


(しっかり柱との間に入って壁になるんだよな。単純に手数が足りない)


 人面柱との距離は残り10メートルといったところか。

 しかし闇の塊が邪魔をしてこれ以上距離を詰めるのは難しい。


(どう見ても実体があるタイプじゃないから、殴ってどうにかなる感じじゃないんだよな)


 ユウマがあと一歩を攻めあぐねていると、突如、闇の塊は分裂をはじめユウマと反対方向へと飛んでいく。


 瞬く間に闇の塊のサイズは1/10、元のサイズが1メートルくらいだったのでざっくり10センチメートルほどのサイズになった。


 もはや盾としての役割を果たせていない。


 ユウマは軽くステップを踏むと、闇の塊をかわして勢いよく人面柱の根本まで走りこんだ。


 ユウマの左拳が腰から真横にスイングされる。

 風を切る音とともに、人面柱に生えた顔に横殴りのブローが突き刺さった。


 さらに右から打ち下ろしの右ストレートチョッピングライトがドゴオォォンと凄まじい音を立てる。


 左、右、左、右……。


 繰り返し放たれる拳に人面柱に生えていた顔が次々に潰れていった。


 ――おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ


 唸り声がどんどん小さくなっていく。

 人面柱が弱ったためだろうか、闇の塊もいつのまにか消えてしまったようだ。


「おのれぇぇぇ」


 人面柱から初めて唸り声ではない、人語が発せられた。


「我が力が消えていく。口惜しい。恨めしい」


 ユウマは無視して柱を殴り続ける。

 殴れば殴るほど、ナイドラは人面柱から邪心を喰らう。


 人面柱の根本がサラサラを崩れていく。

 ボスモンスターを撃破したときと同様の現象だ。


「我は消えても、嫉妬の心は消えぬ。貴様という光が強くなるほど、嫉妬の心も増えていく。我は再び――」


「うるせぇ、何度来たって俺がぶん殴ってやるよ」


 おぞましい柱は消え去った。

 だがその先に見えた光景が、ユウマに再び拳を構えさせる。


 そこには蛇とライオンとサソリが合体したような化け物や、上半身が人で下半身がライオンというケンタウロスの亜種みたいな化け物など、見たことモンスター10体以上並んでいた。




――――――――――――――――――――

💀人面柱

 嫉妬の名を冠する大いなる災厄。

 敵の心を蝕む精神攻撃を得意としているが、物理的な攻撃力に欠ける。

 通常の武器では傷をつけることも出来ないが、邪心を食われるとか聞いてない。


💀闇の塊

 嫉妬の名を冠する大いなる災厄の眷属。

 薄く広がれば全てを包む闇となり、一カ所に集まれば本体を守護する盾となる。

 本体に近づく対象をオートロックして、必要に応じて分裂する。

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