会場散策(32:ななくさつゆりさん)

 ここはクリエイティブな物書きと、それをこよなく愛する読者さんが住んでいる国『カクヨーム王国』である。


 さて、本日もカクヨーム王国へやってきた和響は、早速イベント会場へ向かうようだ。これを始めた時は温かいヒートテックにスウェット姿だったのが、今ではすっかり衣替えし、黒いダブルガーゼのノンスリーブワンピースを着ている。お腹の締め付けがないって最高、などと言っていても良いのだろうか。少々心配ではあるが、当の本人は全く気にしていないようだ。なんだか楽しそうに大きな独り言を言っている。


「もうさ、あれだわ。五分で読書に応募する作品書くのが超楽しいってば! 中学生の恋! 最高か! さて、そんなことよりも、まずはこっち。では 自主企画【戦争のない平和な世界になりますようにと、優しい「祈り」を込めて書いた作品募集します!https://kakuyomu.jp/user_events/16816927861270086890】へ向かいますか!」


 どうやら「五分で読書」に応募する作品のお題を子供たちに十七個も貰って、ウキウキしている様子。カキカキルームですでに二作品、仕上げたそうだ。そんなことを書いていたら、便利な妄想世界はあっという間にイベント会場へついた。


 本日もカラフルポップな可愛らしい会場である。空には虹の形をしたバルーンが大きく浮かび上がり、その上に「平和と祈りの祭典」と書かれたネオンライトが光っている。


「ほほう、今日は夜バージョンね。夜もなんか、お祭りって感じがしていいよねぇ。ほら、あそこには出店も出てるし。お、イカ焼きか、ん?あれは?アノマロカリス焼き? こ、古代生物!?!? ふ、不思議だ。不思議な食べ物だ。しかし見た目はエビ……? まぁいいか、さ、今日の方はエントリーナンバー三十二番の方だよね! ではでは、三十二番のななくさつゆりさんhttps://kakuyomu.jp/users/Tuyuri_N の本屋さんへレッツラゴー!」


 和響が声を上げると虹色の煙が足元から湧き上がってきて、くるりと和響を包みこみ、そのまま勢いよく空へと舞い上がったかと思うと、あっという間にななくさつゆりさんの本屋さんの前についた。


「ひょー、こんな移動方法もあったのね!」


 どうやらここは現代ドラマシティとファンタジーシティの間のようなところ。美しく整えられた公園には芝生広場が広がり、そこでは、薄い紫色の艶やかな髪を長く伸ばした寝転ぶ恋人たちがいる。公園の中に建っている少しモダンな建物がどうやら、ななくさつゆりさんの本屋さんのようだ。まるで現代美術館のような意匠をしている。


「すごく洗練された美術館みたいな本屋さんだ。それもそのはずかぁ、ななくさつゆりさんの書かれる作品、どれをとっても印象派の絵画のような、芸樹的な美しさを感じる文章だもんね。くぅ! いつかそんな美しい文章を書けるようになりたい!」


 そういいながら、現代的なデザインの美術館のような本屋さんの中に入って行った。入り口には「あなたの脳内でお楽しみください」と書いてある。中には様々な物語が美しい絵画として飾られている。


「あった。これだ。この作品は他の絵画と違って、昔の街並みを復興しているような? そんな感じだよね。それにこれって、誰かに似ている気がする。うん!楽しみ! それでは、つゆりさん、妄想アトラクションで世界を満喫させていただきます!」


【Lsbd:天正十五年の博多砂浜に町を描く男  作者 : ななくさつゆり

https://kakuyomu.jp/works/16816700428214510140


 いつもは本の中へ入っていくが、今日は絵画の中へと消えていくようだ。体が大きすぎるのか、ふんふん言って額に入ろうとしているようだけれど、そんなことをしなくても便利な妄想世界なんだから、と思っていたら気づいたのか、「そうか、えいって掛け声かければいけるのか」などと言ってすうっと、薄茶色の街並みが描かれている絵画の中に消えて行った。


 そしてしばらく、その絵画の中で、「へぇ、そうだったのか。うんうん。勉強になります。あぁ、なるほど。え? 印象と違いました、秀吉様。あぁ、涙が」などと大きな独り言を言って、外に煙のようにすうっと流れて出てきた。


「なるほど。この絵は天正十五年の博多の町を復興している絵だったんだね。そしてこのみたことあるような気がしてた人が秀吉様。なんか、この戦乱で破壊された街をみんなで復興している姿が、今のウクライナとかぶってしまって、胸が熱くなりました。イベントご参加、本当にありがとうございました」


 大きな独り言をいいながらお手紙を書いて、受付に置いてあるご意見箱へと投函した和響。ななくさつゆりさんの本屋さんを後にして、公園の中を歩いている。公園にはまだあの、薄い紫色の艶やかな髪を長く伸ばした寝転ぶ恋人たちが、幸せそうに芝生に寝っ転がっていた。なんとも平和な世界だ。


「あ、多分あの恋人たちはあれだね、さっきの美術館に飾ってあった絵の、【翡翠の瞳が見た未来  作者 : ななくさつゆり https://kakuyomu.jp/works/1177354054894609957】のお二人だったんだよね。このお話も、とても深い深いお話だった。もう、ななくさつゆりさんの作品はどれも美しかった!」


 いつか自分もそんな美しい文章が書けるといいな、などと思っているようだが、それはずいぶん先になりそうだ。おっと、こちらの声が聞こえたのか、変な顔をしてキョロキョロしているようなので、本日はこの辺で。





 歴史は繰り返すと言うけれど、繰り返してしまうのは人。で、あるならば、今こそ歴史から本当の意味で学び、新しい未来を切り開きたい。







亡くなられた方々の魂に。壊された町に。






――黙祷




世界中が平和な世界になりますように。


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