会場散策(31:水城洋臣さん)

 ここはクリエイティブな物書きと、それをこよなく愛する読者さんが住んでいる国『カクヨーム王国』である。


 しばらくぶりにカクヨーム王国のイベント会場へ戻ってきた和響とやら。どうやら思いついて書き始めた長編ミステリーが完結したらしい。無謀にもコンテストに応募すると意気込んで書いたミステリーは規定文字数二十四万字ギリギリ。どうりでこのカクヨーム王国の「平和と祈りの祭典」に来れなかったわけである。


「ほんと、来れなかった。もう物語が猟奇的殺人事件だから、そんなの書きながらさすがにこの作品紹介はできなかった。もしも待ってくれている方が一人でもいらっしゃれば申し訳ありませんでした! では 自主企画【戦争のない平和な世界になりますようにと、優しい「祈り」を込めて書いた作品募集します!https://kakuyomu.jp/user_events/16816927861270086890】へ向かいますか!」


 作者、心の生の声を思いっきり書き出してからの瞬間移動は今日もあっという間にイベント会場へとついたようだ。カラフルなバルーンが浮かび、様々なジャンルの人々や獣人、魔王などもうろうろと歩き回り、手に美味しそうな虹色のソフトクリームを持っている人もいる。


「ん? あれは? 昔テレビで見たことのあるような?真っ黒な長い上着と、黒い帽子におでこにお札って、キョンシー!?」


 顔に黄色いお札を貼り付けて、ぴょんぴょん飛びながらキョンシーが列をなし、どこかに向かっていくようだ。和響は思わず「懐かしい! わたし昔キョンシーの仮装して盆踊り大会に出たことあるんだよね!」といい、本来の目的を忘れてついて行ってしまった。


――それに、今日お伺いする予定のカクヨムさん、そういう時代背景のお話書いてるんだよね。もしかしてついてけば、 水城洋臣さんの本屋さんにそのまま行けるかもしれないぞっと。


 妄想世界は大変便利。今日で四十三歳になった和響とやらも、昔テレビで見ていたキョンシーの衣装に早変わりして、顔にお札までつけて跳ねながら行進している。大丈夫なのだろうか、またアキレス腱を切る気がしてならない。「平和と祈りの祭典」の会場を出て、どうやら歴史・時代・伝奇シティの方へと向かっていく。あの様子だとあと十分はかかるだろう。


「ヒー、もう太ももが無理だー!」


 そういいながらも妄想世界なので、ひいひいいいながらも、目的地、水城洋臣さん https://kakuyomu.jp/users/yankun1984 の本屋さんに到着したようだ。キョンシーを引き連れていた人が、中国の古い民家のようなところへ入って行った。キョンシーは大人しく家の外で列をなして待っているようだ。


「ちょっと、怖いけど、元はこの人たち人間……なんだよね?」といいながらそのキョンシーの列から離れ、汗を拭き拭き、古い民家の中を覗き込む和響。思っていた以上に中は広く、油皿に灯が灯されている。そのぼんやりとした明かりで、大きな書庫が浮かび上がっていた。


「中には古い書物がたくさんあるみたい。では、水城洋臣さん、お邪魔しまーす」


 そう言って恐る恐る中に入ると、土壁の湿った匂いが鼻に入ってきたのか、一瞬顔を歪め、びくっと肩を震わせた。


――なんだか、ちょっと怖いのは、わたしが怖がりだからだよね……?


 なんてことを考えているのかもしれないが、自分もキョンシーの衣装を着ていることはもう忘れてしまったのだろうか。長めの袖を少したくし上げ気合を入れたのか、本棚から一冊の本を抜き取った。


「よし、見つけたぞ。これだこれ。では早速妄想アトラクションに行ってきます!」


【 屍山血河の国  作者 : 水城洋臣  https://kakuyomu.jp/works/16816452219076866572 】


 と書かれた本の中に頭からすっぽりと入り込み、その物語のなかで本物のキョンシーと遭遇したようだ。「ひー、怖い。そんな、ひどいこと。なんで? もういつの世も争いばかりじゃない!」などといいながらまた元の位置に戻ってきた。


「なんかいつの時代もどこの国も争いばっかりで本当に辛い。歴史から学ぶということをものすごく感じる作品だった。本当の意味で、学ばなきゃ、いつまで経っても終わらない。水城洋臣さんのエッセイの、《自作品の根底テーマについて https://kakuyomu.jp/works/16816452218871395908/episodes/16816452220486287816》も読んでさらに涙が出てきたよ。水城洋臣さん、ありがとうございました!」


 鼻水をすすりながら、なにやらお手紙を書き、すぐ近くにある机の上の壺の中にそのお手紙を入れたようだ。そして、えいっと掛け声をかけ、いつもの自称連載作家気取りに衣装を変えて外に出てきた。


「キョンシーになりたくてなってるんじゃないもんね」


 などと外で並んでいるキョンシー達に声をかけて、水城洋臣さんの本屋さんを後にした。あたりはすっかり夜になっていて、星空が広がっている。


――星の光は何千年も前からそこで輝いているんだよね? じゃあ地球上で起きているこの人間同士の争いもそこでずっと見てきたんだよね?


「もういい加減人間同士で争いを繰り返すのはやめて欲しいって、思ってるー!」


 和響は涙目でそう空に叫び、胸に手を当てて祈りを捧げているようだ。インターネットが普及して、世界中どこでも繋がれるようになった現代社会。その現代においてもまだ人は、戦争という古臭い手段を使うのだろうか。


「争いがなくならないのは仕方ない。でも、戦争という手段だけは無くさなきゃいけない。絶対に。戦争で子供達の学びが奪われたり、命を落としたり、家をなくしたり、もう本当に、そんなことは絶対やめて欲しいんだってば」


 ウクライナでは子供達が通っていた学校が攻撃されたそうだ。子供達は地下鉄の中で、勉強をしている。亡くなった子供達も大勢いたようだ。そんなニュースを見ると胸が痛い。そして、日本も他人事ではないと、そう思ってしまう。



 一刻も早く今起きている戦争が終わって欲しい。

 お亡くなりになられた方々の魂へ、鎮魂の祈りを込めて。






 ――黙祷。






 今起きていることが当たり前になって、心が麻痺しない自分でいたい。

 

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