迷宮入りした(作中でする)不可解な事件のお話。
まったく解明できない不条理な事件と、そこに残された作者不明の詩。
ミステリらしい、というか、ミステリにおけるロマンのようなものを感じるこの道具立てが魅力的です。
主人公のような刑事という生業に限らずとも(=事件の解決を目的としていなくても)、起きた出来事にはつい意味や合点のいく解釈を求めてしまうのが人間というもの。
しかしそれを固く拒むかのような状況が、ただ何も言わずそこにあることに、何か言いようのない情動のようなものを感じてしまいます。
冒頭の、モアイの逸話が好きです。
内容もですけど、まず2,000文字に満たない分量の中で、冒頭にこれがあること自体がもう大好き。
誰にでも知られたくないことの一つや二つあるでしょうけれど、なぜ知られたくないのかと言えば人は結局その人個人をもっとも身近な存在として否応なしに好いてしまうからではないかと考えます。他人のことは究極わからないのです。でも自分のことはわかった気になる。だから彼には彼なりに服を脱ぐ理由もあったんだと思います。矛盾だとか不条理だとかそんなことは他者の想像できるスペースでしかありません。そしてこの物語はわからないまま終わらせるところに良さがあります。わからないことは罪ではないと詩も言ってるんです。すっぽんぽんのまま死んだ優しい男の最後の言葉があまりにもロマンチックではありませんか。未踏の雪は真っ新で絵のように輝いている。それ以外のことは引き立て役でしかない。