俺の幼馴染は誰もが……のあいつを推してるんだ。はあ……。
仁志隆生
俺の幼馴染は誰もが……のあいつを推してるんだ。
彼女の名前は
俺こと
彼女は小柄で少し長い髪、顔は可愛いらしく、頭はよくて成績優秀、運動神経も抜群なんだが、おそらく大多数の人が推さんだろうものを推していた。
それは……。
俺は今、風凜の部屋にいる。
「ハアハアハア、黒光りして大きくていいわあ」
風凜がヨダレ垂らしながらなんかほざいてる。
「……なあ、風凜」
「何よ?」
「いつも言ってるが、なんでソレが好きなんだよ?」
「だってカッコいいじゃん、ほら見て」
風凜はおそらく殆どの人が嫌いであろう黒いあんちくちょう、Gを手に乗せていた。
普段は机の上にあるケースに入れて飼っている。
こいつがちっこい時に弱っていたのを見つけて保護したとかって、んなこと出来るのか? Gって懐くのか?
とまあそれはともかくとしてだな。
「……カブトムシとかならわかるけどさあ」
この部屋の壁という壁にGの写真やイラストのポスター、本棚にはGに関する資料だらけ。
家具も机もベッドも黒で、年から年中G様G様と言ってる。
それだけならまだしも。
「皆そう言うよね。こんなにカッコいいのに、見せたら悲鳴あげて逃げるしさ」
こいつはGを布教しようとしやがるんだ。
そのせいでクラスで浮いていて、俺以外とは殆ど付き合いが無い。
それでもめげないんだからある意味強い。
「というかあんたもG様の推し活しなさいよ。命の恩人なんだからさ」
風凜がアホな事を言ってくる。
「それはあの時のGだろが。そいつは完全に別人(?)だろ」
「この子はあのG様の子孫かもしれないじゃない。そうじゃなくても推すけどね」
「あのなあ」
なんの事かと言うと、それは俺達が十歳の頃。
公園で遊んでいたら突然鼻息の荒い変なオッサンが俺達に迫って来た。
後で聞いたが、それは小さい子にイタズラしたがってた変態だったそうだ。
俺達は必死で逃げたが、パニクってたのもあって家と反対方向へ行ってしまい、しまいには行き止まりに追い詰められた。
もうダメだと思ったその時だった。
なぜかどこからか何匹ものGが飛んできて変態の顔に張り付いたんだ。
一匹でもアレなのに何匹もだったからか流石の変態も怯んで慌てふためき、しまいにはすっ転んで動かなくなった。
それを呆然と見ていた俺だったが、ハッと今がチャンスだと思い、風凜の手を引いて逃げた。
そこへ誰かが通報したんだろう、数人の警官が走って来て俺達を保護してくれた。
これもかなり後で聞いたが、どうやら変態は打ち所が悪かったのかそのまま地獄へ行ったらしい。
そしてあの時から風凜はGを推し始めた。命の恩人だとか言って。
感謝するだけならいいよ。俺だってあの時のG達には感謝してる。
けどお前はやりすぎなんだよ。
「あー、カッコいー」
気がつくと風凜はまたGを見てウットリしていた。
「なあ、このままじゃずっと浮いたままだぞ」
「いいもん。G様さえいれば」
んな事言うなよ。俺だっているだろ。
それにずっと俺はお前を……なのに気づかずにいやがる……はあ。
「あ、G様が」
「は?」
ぴとっと俺の額にひっつ……ギャアアアーー!
「ちょ、潰しちゃダメよ!」
必死になって叫ぶ風凜。
「わ、わかったから早く取ってくれ!」
「うん!」
風凜が近づき、Gを掴もうとしたが
「あっ!?」
Gが素早く飛んでいった。
そのせいか風凜はバランスを崩し、俺の方に倒れ込んできやがった!
って危ない!
俺はとっさに風凜を受け止め、抱きしめてしまった。
「あ、おい。大丈夫か?」
だが風凜は何も言わなかった。
「おい、どうしたんだよ?」
「……あの時もさ、こうして抱きしめてくれたね」
「え? あ……」
そうだ。あん時も風凜だけはと、庇うように抱きしめたんだった。
「あの時さ、きっと助かるって思えたんだ。信が守ってくれるからって」
「え?」
「G様にも感謝してるし好きだけど……私は信が好きだったんだ」
「な、何言ってんだよ?」
「でも信はあんまりG様を好きになってないから、言えなかったんだ」
風凜は弱々しくそう言った。
って、そうだったのかよ……。
「……いや、俺もずっと風凜が好きだったよ。けどGが一番だと」
「推しは別格だよ」
「おいこら待て、ってもう言っちまったし、どうなんだよ?」
「どうって、勿論オッケーだよ」
「あ、ありがと……ん?」
気がつくとGが俺達の上を回るように飛んでいた。
そしてケースの中へ入っていき、こっちを見ている。
- おめでとう -
ご都合主義と言われそうだが、Gがそう言ってる気がした。
うん、ありがと。
よし、これからは俺も風凜と一緒にGの推し活すっかな。
迷惑にならんよう押さえながら、な。
俺の幼馴染は誰もが……のあいつを推してるんだ。はあ……。 仁志隆生 @ryuseienbu
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