BLUE-推しの憂鬱-

枡本 実樹

いつ戻れるのでしょうか。フツーの高校生活。

「おーい青野ー!オマエにお客さーん。」

「あー。はい。」

教室の入口へと歩いて行く。

歩きながら、正直、いつまで続くんだろう・・と思う。

休み時間は、休みてぇ。コレ本音です。


入口に行くと、女子が二人。知らない人。

「あの。コレ。」

紺色の包装紙にラッピングされた何かを差し出される。

「いや、そんな。申し訳ないんで。」

知らない人から物を貰っちゃダメよ。って、小さい頃から母親に言われている。


「・・・。迷惑、ですか・・。」

うつむくその子の隣で、付き添いらしい女子がキッと睨み付けてくる。

「受け取ってあげないの?」

こ、怖っ。こえぇぇ。

「あの、ありがとう。」

受け取ると、その子はバッと頭を下げ、すぐに廊下を消え去っていった。


誰なんだろう。

誰か分からないけど。ありがとうございます。

そう思いながら、席に戻ってると、ガシッと肩を組まれる。

「おーブルー!モテモテぇ~。」

「るせぇ。」

ニヤニヤしながら話しかけてくるイケメンのコイツは、幼稚園からの幼馴染。


部活も一緒で、親友でもあるヒビキ。

しかし、このメンドクサイ生活の始まりの元凶を作ってくれたヤツでもある。

「メシ食い行こ~。」

「食堂は行かねーぞ。お前と行くとメンドクセーし。」

「ブルー冷たい。こわいっっ。」

「その呼び方、やめれ。」

そうやって、俺らは週4は通ってる場所へと向かう。静かに昼休みを過ごすために。


その場所に行くと、先客が五人いた。いつものメンバーだ。

「おつかれー。」

中に入って、弁当を広げる。

「みんな揃ってるし、ちょっとお願いがあるんだけど。」

元凶を作り出してくれた中心人物でもある、もう一人の幼馴染リコ。


家も近所で母親同士が大の仲良し、というメンドクサイ間柄。

「やだね。オマエのお願いは聞かない。」

即レス。これ以外に返す言葉はないです。

「右に同じく。後ろの彼氏にだけお願いしろ。」

お、ヒビキもか。

「同じく。」

「同意。」

「オレも。」

残りの被害者でもあり、去年のクラスメートの三人もすぐに答える。


「リコ、もうやめとけよ。」

話がワカル男。リコの彼氏でもあり、前生徒会長の大崎くん。

ありがとう、大崎くん。コイツを止められるのは君だけだ。


そう、オレたち五人が、昼休みをこんなとこでコソコソ過ごさなきゃいけなくなった理由。

それは、遡ること一年前。

学園祭でのクラスの出し物。


当時、同じクラスで生徒会長だった大崎くん。

そして、学級委員だったリコ。

フツーは真面目な感じのヤツがなるだろーこの役目を、やたらノリのいいこの二人がやっていたことがいけなかった。


まぁ、このノリがいいうえに、性格もいい二人が中心だったこともあり、クラスはめちゃくちゃ雰囲気のいい楽しいクラスだった。

そこに、バスケ部のキャプテンでもあり、女子に人気のヒビキがいたこともあって。

歌ってさわれるアイドルグループ【 ニノナナ 】の結成が決まった。

ヒトゴトだと思っていたオレに、直後災難が降りかかる。


クラスの女子投票の結果、色は勝手にこっちで振り分けたので発表します。

学園祭の三日間だけの活動なので、文句は受け付けません。との前置きの後。

「レッドはヒビキね。ブルーはユウで、イエローはトウマで、グリーンはユズ、ピンクはイッシ―ね。」


えええええーーーー。

まてまて、なぜオレが!?

アイドルなんて、無理だろう!

「おー。ユウ一緒に頑張ろーなー。」

ニコニコしながら話しかけてくるヒビキに、言葉が出ない。


「じゃ、コレ準備とか練習のこと、よろしくー。」

リコがプリントを配っていく。

「おいリコ、オレはできないぞ!だいたいブルーってなんだよ。」

にっこり笑いかけるコイツ。絶対オレを笑いものにしよーとしてるだろ。


「最初に言ったけど、文句は受け付けません。ユウは青野だからブルー。」

は・・・。何、オレ、名字で選ばれたの?やってられるか。

「アイドルなんて無理だかんな。踊ったりできねーし。」

小一から始めたバスケ一筋。オレにダンスなんてもんは無縁だ。


「ダンスとかないって。今から一ヶ月じゃ無理っしょ。」

ほら、ココ。と、プリントを指差して去っていく。

【 歌って “ さわれる ” アイドル ニノナナ 】

さわれるって何だよ!

握手だけよー。って声が響く。


とまぁ―――、それから学園祭までの出来事は、ここでは文字数の制限上、割愛しますが。


たった三日間だけ、の約束でやった “ クラスの出し物 ” のアイドル。

これまたやたらとノリのいい演劇部顧問の担任と合唱部顧問の副担任に、昼休みと放課後みっちり練習させられ。

当日はヘアメイク係だの衣装係だのに好き勝手いじくりまわされて、オレたち五人は

【 歌って “ さわれる ” アイドル ニノナナ 】として活動させられたのだった。


そして、その三日間が終わり、また平穏な日々がおとずれる。はずだった。のに。

そこから、悲劇の日々が始まるのである。


まずは、オレが学校生活で一番大切にしていた部活。

我が校のバスケ部は、歴代、総体での優勝争いをしているようなところで、オレはその為だけにこの高校に進学したと言ってもいい。

ゴリッゴリの熱い監督のもと、かなり厳しい練習を重ねてきた。

怒号が飛ぶような練習。隣のバレー部さえ近寄らないような練習時間に、違う空気が漂ってきた。


学園祭で売られた、赤と青と黄色のうちわを持った女子が体育館の出入り口に集まるようになり。

そのうちに窓のところにも集まるようになってきた。

コワモテの監督も、別に注意することもなく、いや、いっつも変なジャージだったのが、スポーツブランドのきれいめジャージに変わって。

練習の前後、出入り口で知らない女子の間をササっと通り抜けなければいけないというメンドウな日々が始まったのだ。


二ヶ月も過ぎたら誰もいなくなるって。気にすんな。

そう言われて、当たらず触らずな日々を過ごしてた。のに。

事態はどんどん悪化していった。


試合後のプレゼント攻撃。

元々モテ男人生を歩んでいたレッドことヒビキは、素直に喜んでいたらいいんだよ。って、昔から変わらない笑顔で「ありがとう。」なんて言ってたけど。

バスケにしか興味のなかった、ヒビキの隣でずっと地味に静かに生きてきた、非モテ人生のオレには戸惑う事ばかりだった。


他の三人も同じようで、特に、読書が趣味で図書委員長のイッシーこと石田くんは、オレ以上に困っていたようだ。

彼はクラスでもそんなに目立たない方だったが、メンバーに選ばれたあと、ヘアメイク係に指定されたヘアスタイルに切ってくるよう指示され、翌日、その長い前髪に隠れていたイケメンっぷりにクラス中を驚かせたのだ。


と、そんな日々に慣れることなく半年が過ぎ。

一部の女子の中で「推し」と言うのがあるらしく。

スクールバックに推しの色のキーホルダーを付けるのが流行っているらしい。


そして更にそこから半年ほど過ぎた今。

なんか、想像とかけ離れたことをしてしまうと非難されるという、なんとも生活しにくい学校生活が続いているのだ。


「フツーに暮らしたい。」

イッシ―が言う。


「本物のアイドルを好きになってくれたらいいのに。」

最近、大量のバナナを貰ったというトウマ。


「まぁまぁ。こんな一般人のオレたちがキャーキャー言われるのも、人生で今だけだからさ。楽しもうぜ。」

さすが、ヒビキ。性格もいいお前は一生モテる。


「カノジョ欲しー。ジトォォォー。」

フツーにカッコよくて、学園祭前もサッカー部でモテモテだったユズがリコと大崎くんを睨み付ける。


そんだけモテるようになったら、彼女なんてすぐにできるでしょう?って。

いやぁー違うんだなぁ。

女子の結束は強い。のか、何なのかわからないけど。


最初に、勘違い?したのは、ユズだった。

一つ下の学年の可愛らしい子に、プレゼントを貰った時だった。

彼女になる?って聞いた時、即答で返ってきたらしいのだ。

「いや、そーゆーのじゃないんで。ユズ先輩は、わたしにとって永遠のグリーンです。」

って、机に突っ伏したユズに、みんな爆笑。お茶を吹き出しそうになったのを思い出す。


永遠のグリーンってなんだよ。そう呟いてたけど。

オレも、そのよくわからないたぐいのくくりのブルーとして、この貴重な残りの高校生活を終えるんだなと思った。


実は、入学当初に一目惚れした。

おとなしそうなその子と今年は同じクラスなんだ。

平穏に生活するため。まぁ、なんも行動できないまま卒業だけど。

でも、今日、ちょっとだけ嬉しいことがあった。


完全な勘違いかもしれないけど。

その子が使っているシャープペンがブルーだったんだ。

そしてなんと、バックにつけてるキーホルダーのクマもブルー。

オレとはなんの関係もないのかもだけど。


神様、オレ、卒業式まで、健全なブルーを頑張ります!

だから、だからどうか、彼女のブルーが奇跡でありますように・・・。





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BLUE-推しの憂鬱- 枡本 実樹 @masumoto_miki

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