我ら文芸部は今日も推し活に励む
チャーハン@カクヨムコン参加モード
我々文芸部員の中で推し活に励む者がいるらしい
将棋ミステリー同好会のある人物を推しているグループがある噂を聞いたのは、文芸部に所属してから一月経った頃です。その方と同じクラスである先輩が言うには、どうやらその集団は表ではまともだが裏ではその人物を主人公としたポエムを書いているらしいのです。
そんな集団があるのか、怖いなぁとこの頃の僕は感じていました。
六月中旬の放課後。
文芸部の部室内では、期日が残り三日となった校内新聞を作成するために会議が行われていました。この日の議題は主に三つでした。
一つ目は先々週の学校習慣の達成度をまとめた紙をHR会長から貰ってくること。学年ごとの習熟度を調べることで執筆量を減らすと共に生徒達に現状の達成度を可視化させるために重要です。
二つ目は、文芸部が選んだ書籍紹介。
高校生向けであるため基本的に大きな賞を受賞した小説や国語の授業に出てくる書籍、運動部向けの書籍最近はライトノベルなどの需要も増加しているため小さい欄で紹介しています。
三つ目は、学内広告の設置。この学内広告の内容決めは特に難儀です。多くの部活動・同好会がある中で設置できるバナーはおよそ六つですが、月に四回作るとしても二十四個しか出すことが出来ません。
その上、サッカー部や野球部の様な宣伝に力を入れている運動系の部活広告だと大きなスペースがいるため設置出来る個数が減少します。
基本的に小規模でまとめてくれた部活は一括でやってしまいたいのです。
しかし、それを否とする方がいます。
その方は将棋ミステリー同好会部長、
「却下。私達が前面に出ていないわ! もっともっと大きくしてちょうだい」
「いやいや……無茶言わないで下さいよ。他部活の宣伝も兼ねているので一つだけ贔屓するわけにはいきませんし」
「贔屓上等。私達は絶対結果を残せるから絶対に宣伝した方がいいわ! 」
「その根拠は? 」
「私という存在よ」
彼女はPCで議題をまとめている僕の横で、広告を大きくしてくれと頼みこんでいました。変な理由を並べられても、僕としては独断で変えるわけにはいきません。
「いや、だからですね。異例を認めてしまうと他の部活からも広告を大きくして欲しいという意見が殺到する可能性があるんですよ。だから無理です」
「そこを何とか! 甘い棒奢りますから! 」
「物で釣ろうとしている時点で駄目ですよ。それにそろそろ会議の進行に支障が出てきているので退出してほしいです」
丸刈り頭のブレザーを着込んだ僕は痺れを切らし、助け舟を出すことにしました。
黒髪をかきあげたボタン付きの青色シャツと黒淵メガネを着用している人物へ指をさします。両手を合わせ肘をつき眼鏡を光らせているどこかのアニメに出てくるような人物を彷彿とさせます。
その人物は静かに、力強く呟きました。
「部長――帰れ――邪魔するのなら――帰れ――」
「はぁ? 何言っているのかわからないんですけれど? もう少しはっきり言ってくださりませんかね? 」
眉を上にあげつつ目を見開きながら口をとがらせる彼女に対し、部長は怒声をあげそうになっていました。それでも、部長は必死にこらえていた。暴力沙汰を起こせば活動停止になる可能性を理解していたからだ。部長はゆっくりと深呼吸を行ってから怒りを収めました。
しばらく膠着状態が続きました。何かが起きない限りこの状況は終わらないだろうと理解していました。そんな時です。二人の人物が部室へと入ってきました。
一人は、百八十センチはありそうな巨漢です。おかっぱ頭に銀縁の丸眼鏡をかけたふくよかな体系が特徴的で、指定された青色のシャツと黒色のロングパンツがはちきれんとばかりになっています。
また、薄い青色が深い青色になっていることと髪の毛が濡れていることから多量の汗をかいていることが分かりました。
隣にいたのは百六十センチ程度の黒髪ロングの女性でした。
青色のシャツと教室の電灯に照らされる度にチラチラと目に映るストライプ柄の指定スカートがとても似合っていました。
細い眉と黒色の瞳で構成された美の黄金比とも呼べる様な顔立ちは、もれなく部室には男子高校生の視線を惹きつけると共に女子高校生達に怒りを抱かせたでしょう。
そんな彼らをよそに、先ほど部室に入ってきた彼らは気を付けの姿勢をとります。
「失礼します。将棋ミステリー同好会に所属する
「
「こちらに、将棋ミステリー同好会の宮前鈴佐はいますか」
「あぁ、成程ね。ほら、あそこにいるよ。背がちっこくて、騒いでいる奴」
桜江さんにたいして、ツーブロックの先輩が僕の方を指さした。桜江さんは少々桃色に明るんだ唇を光に反射させながら指が指し示す方向を視認した。
そして、鈴佐がいることに気が付いてから「あっ、やはりここにいましたね」と言いつつ鈴佐のもとまで駆け足で向かっていった。
「こら――部長! そろそろ活動開始ですから早く来てください! 」
「嫌だ――! 私はこいつらに広告大きくしてもらうまで粘るんだ――!! 」
桜江さんと隣にいる方は鈴佐が面倒くさいモードに入っていることにきがついたのでしょう。桜江さんは申し訳なさげな表情を浮かべながら、背の大きな方に対しとあるお願いをしていました。
その方は当初嫌な表情をしていましたが、周りを見渡し早急に事態を解決する必要があると理解し、溜息をついてから行動に移しました。
「ぎゃ――! 何でそんな持ち方するのよ! 」
「仕方ないじゃないですか。鈴佐殿は腕を引っ張られると騒ぐのだから、お姫様抱っこでしか持ち運べないのです。それに、この行動は人から怪訝な目で見られるかもしれないから避けたいのです。ということで、お騒がせしました」
その方は、大きな体格を生かしお姫様抱っこをしていました。
抱きかかえられた方は逃れようとしますが、全く歯が立っていません。
それを後目に、桜江さんは僕へこう言ってきました。
「ごめんなさいね。今回の一件はいずれ何かしらの形でお詫びします」
僕にだけ見せてきたその表情が、何故か僕の脳内にこびりつきました。
「お騒がせいたしました。今回の一件は部長に対し私達から言い聞かせますので、どうぞご内密にしていただけると幸いです。それでは、失礼いたしました」
桜江は眉を下げ申し訳なさそうな表情になりながら謝罪し、部屋を後にします。文芸部のメンバーは嵐のような時間が過ぎ去った後、張りつめていた糸が切れたかのように下を向き溜息をついていた。
「はぁ……何なんですかね。というか彼らのおかげで四時を回っちゃいましたよ。時間が無駄になったじゃないですか! 」
「そうですよ部長、今回に関しては許せません! 今回のいやこれからの部活広告で彼らを出さないようにしましょうよ」
所属している一年生達が口を揃えて先ほど起こった事件について言及しました。僕らからすれば忙しい時期なのに邪魔されたのですから、怒りが溜まるのは至極当然です。
それに対し、高校二年生達は面倒くさそうな表情を浮かべています。早く終わらないかなと考えているのが何となく見え透いていました。もしここで何もしなければきっと広告は出さないというところで止まっていたでしょう。
なのに――
桜江さんの悲しそうな横顔が僕の脳内にこびりついていたのです。
「今回の一件は水に流しましょう。あの方々もあんな人物を止めるので精一杯ですし、ちゃんと止めてくださりましたから」
僕は、そう口にしてしまったのです。最後、
そして、この日は色々とあったものの会議は無事に終了しました。
僕はいつものように帰ろうとしました。足を進め、校門へと向かおうとします。しかし、足が止まりました。何故か、僕は真逆の方向へ走っていたのです。
僕は荒々しい呼吸を行いながら、とある部室の前まで来ました。そこは、将棋ミステリー同好会の部室でした。まるで如何わしいものを見るように背中を丸くしながら僕は部室の中を外から眺めました。
そこには、驚きの光景が広がっていたのです。
「ほらぁ、そんなんじゃ駄目じゃないですかぁ 」
「ひえぇ……私の船囲いが壊された……それだけじゃなくて、私の陣地にと金が六個もある……もう無理、投了しよ」
「あぁ、言い忘れていました。今回、部長は私に二回勝利するまで家には帰しませんからね。今日来ているのは私達だけですし、穴山君も今日は時間が空いていると言っていましたからね。それに部長も先日時間空いているって言っていましたし」
「えぇ!? そんなぁ……」
僕は、先程では見ることが出来なかった笑みを見ることが出来たことに、不思議な高揚感が腹の内から湧いてきていました。
僕は初めて抱く様な感情を感じつつ右の方を見ました。そして、より驚きの光景に出くわしました。なんと扉の外から部屋の中を眺める部長がいたのです。しかも、目が合ってしまいました。
「フフッ……やはり君も僕と同じ、推し活に励む者でしたか」
「お……推し活……? 」
不気味な笑みを浮かべている部長の言っている言葉がこの時の僕にはわかりませんでした。この時逃げていればよかったのですが、僕は逃げずに聞いてしまいました。
「フフッ……推し活というのはですね。好きな人物を陰ながら応援するということです。それは声援であれ、活動協力であれ、決して本人に危害を加えずに応援するということです」
「な……成程? 」
「君もきっと、桜江君狙いだろう? 」
「何故それを!? 」
「君の反応を見ていればわかるさ。理由は聞かないが折角の推し活だ。丁寧に、しっかりと教えてあげようじゃないかぁ」
「お願いします」
僕は理解しました。
桜江薫さんは、僕の推しになっていたのです。
これから長く続いていく僕だけの推し活道は、この日から始まりました。
我ら文芸部は今日も推し活に励む チャーハン@カクヨムコン参加モード @tya-hantabero
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