推し活とあだ名とコンビニと

南山之寿

あだ名は特徴を集約した箱

 推し活。この言葉を目にした時、数年前の出来事が脳裏に浮かんだ。推し活という言葉が現れる前であったかは、定かではない。そして、この話題にも関係はないだろう。割愛する。


 アイドルや俳優、アニメのキャラクター。自分のお気に入りを贔屓にする。なるほど。推し活とは、こういう意味なのか。初めて目にした言葉が、違和感なく染み込んでいったことを思いだす。


 愛するよりも、愛されたい。推すよりも、推されたい。――本気まじで? 


 私はそこまで、贔屓にしているアイドルや、俳優もいない。アニメは見ない。何を贔屓にしているのだろうか。今更ながら、自問自答を繰り返す。禅問答。


 心と対話。そして、さらに深い部分へ潜っていく。辿り着く、私の中の二重螺旋構造。私が私である所以。整然と並ぶ塩基配列が、私に道を指し示す。独特の風味、賛否両論の歓声。Dr.某と、チョコミントアイス。


 嗚呼!


 私が贔屓にしている勇者達を、忘れてはいけない。私の身体は、この勇者達で形成されていると言っても過言ではない。いや、言い過ぎた。安心してほしい。三食、普通の飯は食べている。液体燃料で動く、近未来的な機械生命体ではない。


 私にも、推すべきものがあった。


 しかし、Dr.某なる暗黒色の炭酸飲料は、なかなか取り扱われない。まず、コンビニでは手に入らない。置いてあるコンビニがあれば、当方まで連絡がほしいくらいだ。専ら、スーパーや酒屋、ドラッグストアで入手する。チョコミントアイスもだ。私の購入で、陳列棚のポジションが、意地できているのかもしれない。近所のコンビニに無いのが、悔しい。


 しかしコンビニという所は、実に不可思議な交差点だ。多種多様な人物が行き交う。バックヤードでは、あだ名が飛び交う。客のあだ名だ。


 決まった時間に、決まったものを買う。この手の客は、印象に残るのだろう。店員が顔を覚え、そのうちあだ名がつく。商品名や、服装のブランド名、様々だ。その時間に来ないと、逆に心配になる。これは、コンビニでバイトをしていた友人がよく話していた。


 この話を思い出したとき、ふと、自分は大丈夫だろうかと、気にならずにはいられなかった。確かめようが無いのが、残念ではあるが。


 偶然とは、恐ろしい。


 実家に帰省したとき、近所の酒屋に買い物に行った。レジの前に並ぶ、白パーカーの男性。カゴにはDr.某の缶。それも箱買い。仲間だ!今すぐ肩を抱き寄せたい感動に包まれた。

 

 良い気分で、レジでの支払いを終え店を出ようとしたとき、レジの女性の話声が耳に入ってきた。


「pepper君、来たね……」


 少なくとも、白パーカーを着てDr.某を買いに行くのは止めようと、心に刻んだ。


 私は、機械生命体ではない。


〜終〜


 


 


 

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