地域活性!SHOW-10-GUY!
宇部 松清
商店街限定アイドルユニット
「みんなー! 今日は来てくれてありがとうー!」
秋田県は
といっても、所詮は県庁所在地でもない、人口80000人程度の市である。その中の小さな商店街に出来た人だかりなど、都会の平日のデパート以下だったりするのだが。
それでもそこは賑わっていた。天神商店街を拠点に活動する超地域密着型アイドルユニット『
「今日は『
その中心で声を張り上げるのは、リーダーの
頼れるリーダー的存在の『ウリ坊』こと瓜太郎がばちこーんとウインクをすると、前列のおばさま連中が多少濁り気味の黄色い声を上げた。
「キャー! 3パック買うわー!」
「あたしは4パックよー!」
「10パック買うからレシートの裏にサインしてー!」
「おーっと、俺の店も忘れてもらっちゃ困るなぁ!
瓜太郎の肩を抱くようにして割り込んで来たのは、金髪で、耳は軟骨までピアスがじゃらじゃら、360度どこから見てもオラオラ系の魚屋・魚大将の息子、
「3匹! 3匹買います! 大丈夫です! 私自分でおろせます!」
「はっ、家庭的アピール、うっざ! 私なんて丸ごと焼くわよ!」
「すみません! 私、切り身で!! うっしーの手でズタズタに切り刻んでくださーい!」
ぎゃいぎゃいと醜い争いの巻き起こる前列の女子達を、「まぁまぁ」となだめるのが、彼、大衆浴場『梵天の湯』の息子、『いず君』こと
「喧嘩しちゃ駄目だよ。みんな仲良くね? えっと、ウチの梵天の湯は30円引きくらいしかないんだけど……あっ、そうだ、せっかくだから、俺が背中流しに行こうかな、なーんて。――あっ、もちろん男湯限定だよ!?」
あーでも男に背中流されるなんて嫌だよね? ごめんね、気の利いたこと言えなくて、とはにかみながら言うと、最前列から三列目までにいたOLさん達が一斉に鼻血を吹き出した。
「いっ、いまからタイに行って性転換してきます!」
「わた、いや、僕! 実は男です! イマジナリー×××ついてます!」
「イマジナリーなら駄目に決まってるでしょ! 私、目潰していきますから! それなら問題ないですよね?!」
彼ら『SHOW-10-GUY』は、全国レベルのアイドルに比べれば知名度もファンの数も当然少ないのだが、そこは地域密着型、何なら平日は商店街のそれぞれの店で働いているということもあり、そこに金を落とすことこそが最大の推し活である。周りの商店街が大手ショッピングモールに客を取られてシャッター街へと姿を変える中、この天神商店街だけは異様な盛り上がりを見せているのだった。推しに金を落とすことで推しの生活も潤い、そして、それに見合った見返り(商品)を手にすることが出来るという、WinWinの関係である。
本来であれば、その名の通り10人で構成されている『SHOW-10-GUY』だが、メンバーが全員集まらないこともある。というか、フルメンバーが揃うことの方が稀だ。何せこちらはあくまでも副業。本業を疎かにしてはならない。あくまでもこれは地域活性のための活動なのだ。活性しているのは天神商店街のみだが。
たったの三人のみのイベントであったが、それでも人気トップスリーの集結とあって、客の数も多い。ボルテージは最高潮である。
「それではそろそろ午後の仕事に戻らなくちゃならないので、最後に一曲聞いてください。『エブリタイム、サービスタイム』」
ウリ坊の手がCDラジカセに伸び、きゃあああ、と嬌声が上がる。ファン達は一斉に鞄からペンライトやうちわを取り出した。真昼間である。せっかく推しのイメージカラーに合わせても、正直そこまで映えない。
「月曜は朝がお買い得!♪」
「お買い得! お買い得!」
彼らが歌えば、予習済みのファン達は合いの手やダンスも欠かさない。赤青緑のペンライトや、『値引きシール貼って』、『レジ袋大丈夫です』、『ここで食べていきます』などのメッセージ入りうちわも揺れる。
「火曜は昼市開催中!♪」
「開催中! 開催中!」
「中だるみの水曜は~、梵天の湯がなんと半額~!♪」
「驚きプライス200円フゥッフー!」
「木曜は午後から午後市だ!♪」
「午~後市だ、午後市だ!」
「花金全品5
「GOGOごぱごぱ5
「土日は花丸特売日! 天神スタンプも三倍デー!♪」
「もってくれよ私の財布、天神スタンプ三倍だー!」
「時にはお休みいただくけれど……♪」
「しゅーん(手を目元に当て、泣くポーズ)」
「5のつく日は?♪(ウリ坊ソロパート)」
「果物がお得!」
「3のつく日は?(うっしーソロパート)」
「貝が安い!」
「10のつく日は?(いず君ソロパート)」
「フルーツ牛乳半額です!」
「ああ、天神商店街、いつだって何かがお得~♪」
「通い詰めます、毎日~!」
「この他にもお店によってサプライズ特売日がある~♪」
「ちなみに今日は娘の誕生日セール!(ウリ坊アドリブ)」
「ゆめちゃん、おめでとう!」
「明日は俺の両親の結婚記念日セールをするぜ!(うっしーアドリブ)」
「いよっ、おしどり夫婦!」
「えっと、どうしよう。俺のところ何もない……あっ、昨日、ピノのハートが出たから、明日はフルーツ牛乳半額にします!(別に強制でもないのに、自分も何かしないとと焦ったいず君によるアドリブ)」
「出た! 困った時のフル牛(フルーツ牛乳)半額!」
「エブリデイ~、エブリナイ~♪」
「ブリはあるけど~」
「エブリタイ~ム、サービスタ~イ~ム~!♪」
「いまから行きます~」
よく考えたら、別にエブリタイムサービスタイムなわけはないのだが、その部分を気にする者は誰もいない。
こうして大盛況の後にイベントは終わり、握手やらサインやらを済ませた後、彼らは各々の店に戻っていくのである。そしてファン達はその後をついていき、パンパンに膨らんだ財布を握り締めて推しの働く店へと向かい、推し活(買い物)をするのであった。
地域活性!SHOW-10-GUY! 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa
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