トリと一緒にお宝探し

にゃべ♪

推しのためにお宝ゲットだ~!

 私は相良水穂。どこにでもいる普通の中学2年生。ある日、帰宅したら丸っこいぬいぐるみの鳥のようなトリって言う謎の生き物が現れた。トリは一緒に宝探しをするんだとか言って、無理やり私を自分の目的に付きわせる。

 おかげで平和だった私の日常はどっか行っちゃった。これからどうなっちゃうの?


 私には今推しているアイドルがいる。人気アイドルグループのリーダーで、当然ファンは多い。別に張り合う気はないから出来る範囲で応援しているだけなんだけど、一応はこれも推し活って言えるのかな。

 高校生になったらバイトして、今より沢山推しのためにお金を使いたいなぁ。


 そんなある日、私がベッドに寝転んでアイドル雑誌を読んでいたらトリがやってきて、興味深そうにじっと紙面を覗き込んできた。


「何読んでるホ?」

「推しの成分を摂取しているところ」

「推しって何ホ?」


 トリは可愛らしく首を傾げる。それを目にした私はムクリと起き上がると、少し得意げになって推しについての説明を始めた。


「推しって言うのは、好きな人って事。好きな人の事を考えると心が潤うでしょ」

「じゃあ水穂はこの人間が好きって事ホね。だからポスターとか貼ってるホ?」

「うん。グッズとかも買ってるよ。推し活って言うんだ」


 推しの説明ついでに、私は推し活についても言及する。すると、彼は私の顔をじいっと見つめてきた。


「グッズとか買うのはお金がいるホね」

「だよ~。だからあんまり買えないんだよね。お小遣い少ないし」

「じゃあ、お宝をゲットしてもっと一杯推し活すればいいホ!」

「お! それいいじゃん」


 口の上手いトリに乗せられて、また私達は異世界に転移する。彼が作ったゲートから出ると、目の前には一面の草原が広がっていた。


「へ~。今度は草原なんだ。ここのどこにお宝が?」

「この草原に現れるレア魔物がドロップするアイテムがお宝なんだホ」


 前回の冒険では遺跡を探したけど、今度はモンスター退治でお宝ゲットと言う流れらしい。これならトラップに巻き込まれると言う事もなさそうだ。早速私は推しのためにモンスター探しを始める。


 見晴らしのいい草原は心地よい風が吹いていて気持ちが良かったものの、どこにもそれっぽい影は見当たらない。でもトリが言うのだからと、まずは周囲を隈なく歩いてみる。

 けれど、歩いても歩いてもモンスターらしきものは見当たらない。歩き疲れた私は立ち止まって休憩した。そうして、近くでパタパタと浮遊しているトリの顔を見る。


「魔物なんてどこにもいないんだけど?」

「どこかにいるホ、見つかるまで探しまくるホ」


 相変わらず、トリはどこか他人事のような反応をする。私の事をどう思っているんだろう。ここであきらめても良かったんだけど、お宝をゲットしたら推し活が捗ると、それをモチベーションにまた探索を続ける事にした。


 やがて、スライムっぽいモンスターに遭遇。私はすぐに光魔法を使ってそいつを倒す。モンスターは蒸発したものの、お宝みたいなものは手に入らなかった。


「何も落とさなかったよ」

「こいつじゃないホ。もっとよく探すホ」


 一度見つかってからは割とモンスターに遭遇するようにはなった。とは言え、お目当てのモンスターは見つからない。考えてみたら、レアモンスターなのだからそんな簡単に出会える訳もないよね。ゲームでもレアモンスターって中々出会えないんだから。

 多分100体くらい倒したところで、私のモチベーションは0になった。魔力も尽きかけた私はその場にペタリと座り込む。


「もう飽きたー!」

「あきらめちゃダメホ!」

「別に今のままでいいよ……」


 そんな弱音を吐いていたところで、突然悲鳴が聞こえてきた。この広い草原で聞く初めての他人の声。どこか聞き覚えがあるようなその声の主が気になった私は、急ぎ足で声のした方角に向かって駆け出した。


「た、助けて~」


 そこにいたのは、私の推しのアイドルにそっくりのイケメン。彼は大型のモンスターに襲われているようだ。防御結界を展開しているものの、今にも破られそう。


「私に任せて~!」


 推しが助けを求めているように見えた私は、すぐにモンスターに向かって特大の光の矢を打ち込んだ。


「ええ~い!」


 魔法の杖から具現化された無数の光の矢は、クマに角が生えたみたいなモンスターに全弾命中。そこで魔力が弾けて内側から大爆発する。こうしてモンスターは倒れ、イケメンは助かったのだった。


「やった!」

「でもあれもレア魔物じゃないホ」

「トリは黙ってて!」


 私はトリの声を無視してイケメンに近付く。結界を解いた彼は、モンスターを倒した命の恩人の私を見て爽やかな笑顔を見せてくれた。


「ありがとう」

「えへへ」


 イケメンは手を伸ばして私の頭を撫でてくれた。まるで推しに撫でられているようで、私のテンションはマックスになる。ああ、このまま時間が止まってもいい。本人じゃないけど、ここまでそっくりなら十分ご褒美だよ~。

 こうして私が有頂天になって目をハートにさせていると、彼の表情がぐにゃりと歪んだ。


「やっぱり人間に変身するといい事あるな~。待ってた甲斐があったよ」

「え?」


 推しそっくりだった彼は段々とその姿を変えていく。どうやら人間じゃなかったぽい。顔は推しそっくりのまま、体がどんどん変わっていく。体型はムキムキのマッチョになるし、頭にはニョキッと角が生えてきた。そう、彼の正体は人間に化けて人間を襲う系のモンスターだったのだ。


「そいつがレア魔物ホ! やっつけるホ~!」

「で、出来ないよ!」


 頭ではモンスターだと分かっていても、顔は変わらないのでどうしても攻撃する気になれない。私が全く無防備のままだったので、推し顔のモンスターはにやりと邪悪な笑みを浮かべた。


「あ、そんな感じなの? じゃあ頂きま~す!」

「いや~!」


 パニックになった私はまた光魔法と闇魔法を同時発動。それがトリガーになって、無事元の世界に戻る事が出来た。推しの顔をしたモンスターに食べられそうになるだなんて、トラウマになりそうだよ。

 私はベッドに倒れ込むと、枕に顔を埋める。


「もう最悪~」


 その様子を目にしたトリが、パタパタと私の顔のに近くまで飛んできた。


「じゃあもう推し活やめちゃうホ?」

「やめない! それとこれとは別だし!」


 私の答えを聞いたトリは何も言わなかった。呆れちゃったのかな。しばらく寝転がって気持ちが落ち着いたところで、私はゆっくりと起き上がる。

 そこでトリの様子をうかがうと、ヤツは幸せそうな顔をして眠っていた。


「寝とんかい」


 最初は起こそうかとも思ったものの、その寝顔を見ていたら何もかもどうでも良くなってきた。私は軽くため息を吐き出して、読みかけていた雑誌の続きに目を通したのだった。

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トリと一緒にお宝探し にゃべ♪ @nyabech2016

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