活火山高校異種格闘技戦
黒幕横丁
決勝戦
体育館はとてつもない熱気に包まれていた。
「さぁ、東雲祭毎年恒例となりました、第八回活火山高校異種格闘技戦。今年も熱戦の予選を勝ち残った強者どもが闘志を燃やすこの大会。皆様大変お待たせいたしました、いよいよ決勝戦の開催となります。本日実況を務めさせていただきますのは、活火山高校三年、生徒会長の国崎です。どうぞよろしくお願いします」
マイクを使って話していた男子高校生が恭しく頭を下げた。
「そして、解説の活火山高校二年、体育委員長の三沢です。本日はこの二人で異種格闘技戦を盛り上げていこうと思います」
二人がお辞儀をすると、体育館に設けられた特設会場内はわれんばかりの拍手が鳴り響く。
「さぁ、さっそく異種格闘技戦決勝の始まりですが、決勝戦の対戦カードは4年間、異種格闘技戦のキングに君臨していた、絶対王者三年の谷山くんとそのキングの玉座を強奪することが出来るのか、一年の下山くんの対戦ですね。三沢くんはこの対戦をどうお考えですか?」
「そうですねぇ。谷山先輩に関してはこの異種格闘技戦のためにわざと単位未取得で留年しているといっても過言ではないので、さっさと負けて大人しく学校を卒業していって欲しいと思っているんですが。一方の下山くんは、今回の異種格闘技戦のダークホースでして、一体どんな戦い方で谷山先輩に挑むのか今から楽しみです」
「ありがとうございます。それではルールを説明いたしましょう。この異種格闘技戦は使うものは自由ですが、あくまで大怪我をしない程度という範囲にとどめております。相手が降参すれば勝利となります。優勝者には活火山高校食堂の一年間ライスのサイズアップ無料券が贈られます。それではいよいよ決勝のスタートです。対戦者はリングへと登壇してください」
生徒会長の合図で、二名の男子が中央に設けられたリングへとあがっていく。
強そうな風貌の男子学生の手には縄が、一方、弱々しそうな男子学生の手には布団たたきとチュロスが握られていた。
カンという軽快な音と共に対戦が始まる。
「谷山くんは安定の縄を武器としてチョイスしていますが、下山くんの使用武器は……布団たたきとチュロスの二刀流ですか? 布団叩きはともかく、チュロスはなんとも斬新ですね」
「はい、事前に入った情報によると、下山くんの家はパン屋を営んでおりまして、それでの人気メニューがあのチュロスだそうです」
「なるほど、宣伝も兼ねているということですね。おっと、ここ谷山くんの縄を駆使した攻撃マルデスネークノヨウナウゴキが炸裂したぁ! 足元を注意しないと転ばされてしまうぞ!」
「この攻撃で何人もの対戦者が泣かされて降参してきましたからね。プライドをズタズタにするには効果ありの攻撃でしょう」
「下山くんはその蛇のような動きに布団叩きで迎え撃っている。かなり効果的だぞ!」
「下山くんもかなり谷山くんの事に関しては研究しているハズなので、この攻撃はなんとも避けたいんでしょうね」
「マルデスネークノヨウナウゴキが効果ないと分かったのか、谷山くんが究極奥義ビッシンバッシンを使ったー! まるで鞭のような攻撃で下山くんも太刀打ちができない! これは万事休すか!」
「下山くんも流石にこんなに早く谷山くんの究極奥義をみることになるなんて思っていなかったでしょうし、これはじわじわと体力を削られて降参する流れ……待ってください」
何かを察知したのか、解説が実況に呼びかけをする。
「何でしょう、三沢くん」
「下山くん何を思っているのか、じわじわ谷山くんに近づいていませんか?」
「よくみたらじわじわと谷山くんに近づいていますね。鞭の攻撃が強い中、布団たたきでガードしながら接近している! 何か策があるのか」
リング上に縄が飛び交う中、ナヨナヨしている男子学生は少しずつ対戦相手に近づいていき、そして……、
対戦相手の口にチュロスを押し込んだ。
「おーーーーっと、ここで谷山くんの口に自家製のチュロスを押し込んだーーー!!! この行為に谷山くんも困惑ムードだ!」
困惑ムードの対戦相手に下山はニヤリと笑って見せる。
『チュロス食ってみな? 飛ぶぞ』
「ここで使っていいのか微妙なラインの名言がきました!」
「あの有名格闘家の発言完全にもじちゃってますね」
「谷山くんがおそるおそるチュロスを咀嚼し始めて、こ、これは、なんと谷山くんが泣いている!」
『う、うめぇ……オイラこんなうんめぇチュロス初めて食べた。参った。降参だ』
「ここで谷山くんの降参コールが出て試合終了だー!」
カンカンカンカンとけたたましくゴングが鳴り響いた。その音を聴いて会場は大いに盛り上がる。
「まさか八回もこの大会続けてきて、食べ物で勝敗が決まるだなんて思っても見なかったですね」
「そうですね。きっと明日以降下山くんの家はチュロス買う行列でも出来るんじゃないんですかねぇ?」
「ですね。では、活火山高校異種格闘技戦決勝は以上となります。今回はとんでもない大どんでん返しで幕を閉じました。来年は一体どうなってしまうのか、また、来年開催されたらお会いしましょう!」
「さよーーーならーーーー!!!」
活火山高校異種格闘技戦 黒幕横丁 @kuromaku125
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