KAC2022 お題:二刀流

月夜桜

襲撃

「ふぅ……跳ねっ返りは、あとは君だけですか」


 僕は両手に持っている刀を手放し、それは光となって消えていく。

 その代わりに、僕の両肩には二匹の猫が、それぞれ黒色の尻尾と白色の尻尾を立てながら立っていた。


 ここは国際教育機関【トリニティ】。

 湖のど真ん中に作られたこの学園島は、世界の繁栄と平和の維持の為に建設された。

 今、その学園島で叛乱が起こっていた。


「何故だ……何故だ何故だ何故だ!!」

「何が不服なのか僕にはよく分からないのだけど、結局君は何がしたかったの?」

「何故貴様が! どの学科・・にも属せない半端者のお前が!! 平民のお前が【聖女】などと寝食を共に!!」


 何かを喚いている生徒に肩を竦めながらこう答える。


「何を勘違いしているのか知らないけど、僕は平民じゃないよ? 僕は正真正銘、各国から認められた・・・・・・・・・立派な貴族さ。生徒アリスやミューリ……聖女ミューリニアス様からは『そうは見えない』って言われるけどね」

「嘘だッ!! ルイス=セルバスなんて貴族、何処を調べても存在しなかった!! だとすれば、貴様は平民の筈だ!!」

「ああ、それか。だって、それ、偽名だもん。何処を調べても、どの国の印文書を調べたって出てこないよね」

「ぎめ、い?」

「うん、そうだよ。偽名さ」

「ははっ。じゃあなんだ? あれか? お前はここにいるヤツら、全員を欺いていたって訳か?」


 目の前にいる赤髪の生徒から目を離さないようにして島全体を確認する。

 ……うん。アリス達もどうにか対応出来そうだね。


「うーん。結果としてはそうなるかな? ただまぁ、僕は本名を明かすとまずい身分なんだよねぇ、これが。だけど、君には特別に教えてあげよう」

「はっ! 一体どんな名前が出てくるのか楽しみだな!」

「じゃあ、改めて自己紹介しようか。僕はルーグ=ルイパルト=トリニティ」


 僕がそう告げた途端、彼の様子が変わった。


「この国際教育機関【トリニティ】の理事長であり、この学園島の領主さ。とはいえ、この学園島はどの国の管理下にも置かれてないから、実質的に僕は国王ってことになるのかな? 国際機関だから、あまり適切な表現じゃないけどね」

「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!! 貴様のような雑魚が学園の最上位だと!? そんなことありえない!! 認めない!!」

「認めなくてもこれが事実なんだよねぇ。さて──」


 肩の上で顔を洗っていた猫二匹……精霊に頼み、再び刀になってもらう。


「勧告します。今ここで抵抗を止めて武装解除すれば、本学からの除名処分で済ませます。これ以上抵抗を続けると言うのであれば──」


 最後まで言い切る前に彼は突撃──僕に斬りかかって来る。

 この感じ……魔物化!?


「チッ」


 思考加速の魔法を連続使用し、何度も振るわれる剣を両手の刀で捌いていく。

 段々と変化していく男子生徒の容姿に頭痛を感じながらも、とある人物に【念話】を飛ばす。


[ミューリ!!]

[!? ルーグさん! なんですか!?]

[すまない! 【都市の鍵】を使ってこっちに来てくれ! 魔物化だ!]

[っ! 分かりました! 討伐は!?]

[まだだ! 今からする!]

[了解しました。あなたの【都市の鍵】、使わせていただきます!!]


 その言葉と同時に【念話】が途切れる。

 恐らく、【都市の鍵】の使用に全神経を集中させているのだろう。

 あれは、便利な反面、一歩間違えればとんでもない所に転移するからな。


「さて、ミューリが来るまで少し遊ぼうか、外道」

「ああぁぁあぁあぁぁぁあああぁぁああああぁぁぁぁぁああっ!! 死ね! 死ね! 死ね! 死ねぇぇえぇぇ!!!!」

「おうおう、こりゃ、ダメかもしれないね。それじゃあ少し拝借して──《聖閃》、からの《聖炎》」


 右の刀で魔物の腕を斬り付け、切断したところを左の刀で焼いて再生を困難にさせる。

 魔物化した人間は、殆どの場合細胞分裂が活性化されて直ぐに再生してしまうからね。


 背後に空間の歪みを感じる。


「ミューリ、思ったよりも早かったね。少し、技を借りたよ?」

「私の技を使ってくれて嬉しいです、ルーグさん♪ それで魔物化したっていうのは──まあ。ベリアル殿下ではないですか」

「ベリアル殿下?」

「おや、ルーグさん。理事長なのに、生徒を把握していないのですか?」

「僕は、今まで、学園運営に一切口出ししてないよ。全て生徒会に任せている。ああ、口出ししたのは、ルイス=セルバスの給料を全て天引きするように、だけだったかな?」


 こんな会話を続けている最中もデタラメに振り回される剣を避け続ける。


「せいじょ……せいじょ!! せいじょせいじょせいじょせいじょせいじょせいじょせいじょせいじょせいじょせいじょぉぉぉぉぉ!!」


 突然、魔物の攻撃がミューリへと向かう。

 ミューリは肩を竦めながら召喚した杖を携え、微笑む。


「わざわざ戦力にならない人間が危険なところに出てくると思いますか? 《聖天》」


 次の瞬間、地面から天に向かって一閃の光が伸び、それは魔物を貫いている。


「……ダメですね。戻せません。残念ですが、仕方ありませんね。《聖滅》」


 彼女が聖句を紡いだ途端、魔物の身体が灰になり始める。


「……ルーグさん。この件は私が教会を通して帝国に通告します。よろしいですか?」

「うん、よろしく。結局、この子達は本格的に使うことはなかったね」


 既に猫の姿となった二匹を抱えて微笑む。


「それを使わないに越したことはありません。さあ、他も魔物化しているかもしれません。助けに行きましょう♪」

「そうだね。《開け》」


 僕はそう鍵言葉を唱え、【都市の鍵】を起動させて応援に向かうのだった。

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