【KAC20221】ソシャゲガチャ二天一流

狂フラフープ

あの日引いたキャラの性能をおれたちはまだ知らない

 ソシャゲガチャ二天一流。

 説明しよう。来たるべき木村とのガチャバトルに備えて、おれが編み出した秘策である。

 だがまず説明のための説明としてガチャバトルの説明をしなければならない。

おれと木村はゲームが好きだ。それはもう大好きだ。あらゆるジャンルのゲームで勝負を繰り返してきたが、ここ最近(約三日間)は中でも大人気ソーシャルゲーム『切手コレクション』にどっぷりハマっている。

 単なるおっさんの趣味と見分けの付かないタイトルをしているが、『切手コレクション』は、ちゃんといつもの美少女キャラを使って戦うソーシャルゲームだ。

 プレイヤーは郵便局の職員となり、郵送されてくるハガキや封筒に貼られた切手が美少女に変身し、なんやかんやする。

 ツッコミどころを上げるとキリがないが、おれたち二人がこのゲームにこだわる理由はただひとつ、回せる無料ガチャの異常なまでの多さである。


 感謝のガチャ、一日一万連無料キャンペーン。

 なんとこれがほぼ常に開催されている。そして恐るべきことにこのゲーム、なんと無料ガチャは単発ガチャしかない。よってこのゲームにおいてはその日の無料ガチャを引き終わる前に次の日の無料ガチャが始まるという珍事が現実にいくらでも起こるのである。

 なにせ一日二十四時間は秒数に換算すると八万六千四百秒しかない。ガチャ演出を飛ばしてもガチャを引くのに一回三秒かかるので、一日分の無料ガチャを引き切るのに三万秒、つまり八時間以上かかるのだ。ガチャを引くのが忙しくて育成などしているヒマがない(ちなみに有料ガチャは十連はおろか百連まである。このゲームの課金はガチャを素早く引く為にある)。

 そして、引き切れなかったガチャは最大十日間ストックされる。


 巷(DL数はゆうに五十万を突破している。これは誰ひとりリセマラをしないこのゲームにおいては驚異的な数なので当然アクティブユーザーも多いはずだ)では自動でガチャを引くための違法なマクロツールが蔓延しているが、おれと木村はもちろん使っていない。

 なぜならガチャを引いてから時間を使うのではなく、ガチャを引くために時間を使う。それがこのゲームの正しい遊び方なのだのだから。

 そしておれたちはとにかくこの無料で無限に引き続けられるガチャの魅力に取り憑かれ、如何に多くの未所持SSRを引けるかのガチャバトルを日々繰り広げているのだ。

 説明終わり。


 ちがう。まだ二天一流の話をしていない。

 おれと木村はこの三日間、毎日のように『切手コレクション』のガチャバトルに明け暮れていたのだが、ある日突然、おれの脳裏に稲妻が走った。そう、閃いたのだ。

「そうだ!  木村よ!  おまえもガチャを引いてみろ!」

「……え? お前には俺が一時間ぶっ続けでガチャを引いてるのが見えてないのか」

「違う。おれのアカウントにログインして、おれのガチャを引いてみろと言ったのだ!」

「……は?」

 木村は理解できないといった顔をしていたが、すぐにハッとした表情になる。

「まさか……!?」

「その通りだ!」

 おれは木村のスマホを奪い取り、アプリをログアウトし、自分のIDとパスワードを打ち込んだ。

「どうだ?  これなら二倍ガチャが引けるぞ」

「おぉ……!!」

 木村は感嘆の声を上げ、二画面でガチャを引く。エラーは起きず、無料ガチャの残数はちゃんと二つ減った。

 これでガチャ一万回の所要時間は八時間から四時間に短縮されるというわけだ。四時間もガチャを引いたことはないが。

 喜びに打ち震えるおれをよそに、木村はおれのアカウントからログアウトし、自分のIDでログインし直した。

「おい! なにやってんだ間抜け! おれの世紀の大発見を何だと思ってる!」

「うるせえそれじゃ俺がガチャ引けねーだろうがバカ! このバカ!」

「こんなクソゲーのガチャ引いて何の意味があるんだ! いいからおれのガチャを引け!」

「いやだっつってんだよアホ! 死ねボケ!」

 こうしておれたちのガチャ戦争は激化の一途を辿ることになる。


 そして今、おれは自分のスマホの他に親のタブレットを使い、二天一流の開発に明け暮れている。

 スナップガチャ、オンザトリコロール、2-1タップ法。『切手コレクション』には様々なガチャの流儀がある。どれも迅速にミスなく、手指の負担を減らしてガチャを回す為に編み出されたものだ。

 だがしかし、今やガチャの引き方にそんな小賢しいテクニックなど不要だと気づいている者はどれだけいるだろうか。

 そもそも、こんなガチャを回す必要性がまず皆無なのだ。

 どうしておれは来る日も来る日もこんなクソゲーを何時間もプレイしていたのだろうか。

 ガチャを引くことに一体なんの意味があったのだろうか。

 おれは泣いた。


 そしてその涙が奇跡を起こしたのだ。

 涙がスマホを通電させ続け、あり得ない速度で画面がタップされる。

 通常はどれほど速く画面を連打しても、演出の問題で時間短縮にはならない。

 だが二つの端末を爆速タップすることで、演出をカットし爆速でガチャを回すことができるのだ。

 その日、おれは初めて全ての無料ガチャを引き切った。


 ソシャゲガチャ二天一流、ここに成れり。



 ちなみに爆速で全ての未所持キャラを引き切ったのでガチャバトルは負けた。

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