引きずって、引きずられていく
荒川馳夫
そこらじゅうに忌まわしいものだらけ
「やめろ、オレを見てくるんじゃない!」
男の声は小さな部屋に鳴り響く。壁にぶつかり跳ね返ってきた自身の嘆きがさらに傷口をえぐりだす。
「仕方なかったんだ。悪気はなかったんだから許してくれよ」
願いが聞き入れられないのを知っていながら、男は懇願する。
決して捨てられないものだと分かっていても、捨てようと何度も試みる。
「アイツがあんなに傷つくとは思わなかったんだ。あの時はオレも幼かったんだ。許してくれよ」
言い訳をただ繰り返すしかできなかった。今のオレにはそれ以外やれることはない。
居座り続けるヤツにいつまでも悩まされるのは嫌だ。
それも一つではない。現世で過ごす時間が長ければ長いほど、己の生み出すヤツに攻撃されてしまうのだ。
ヤツが今のオレを責め立てる。
「お前が生きている限り、わたしたちは生き続ける」
「他者を傷つけたり、あざわらったりしたのは一瞬だ。しかし、その光景は決して消滅しない」
「そうさ。わたしたちは死なない。お前の心をすみかにするからな」
「そして、増えていくことはあっても、減ることはない」
複数人からの執拗な攻めに、オレの心は限界をむかえる。
「くそ……、だったら追い出してやるよ!」
数日後にニュースで男の死が報道された。
彼の知人たちはインタビューにこう返答した。
「びっくりですよ。いつも明るくて、とても良い人柄だったので」
「どうして、死んだりするんだよ」
知人たちでさえ、親しい者の心までは読み取れないのだ。
引きずって、引きずられていく 荒川馳夫 @arakawa_haseo111
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