あたしはこういう人なんです。
岡本紗矢子
あたしはこういう人なんです。
「すいませぇん。熱燗と、あとこのアイスクリームくださぁい」
飲み続けのアルコールでだいぶできあがっている友人が、ネイルばっちりの手を挙げて、店員さんに声をかけた。
熱燗とアイスクリーム。熱燗とアイスクリーム。店員さんは表情を変えずに「かしこまりました」といって離れていったが、私はその取り合わせに、束の間考え込んでしまった。
「えーと、大丈夫? 今、おつまみみたいにアイスクリーム頼んだけれど、判断力生きてる?」
「はぁ? 失礼ねぇ~熱燗とアイスクリームの何がおかしいのよ~。どっちも好きなんだからいいじゃんよ~」
「いや、ただその組み合わせ、合うのかなって思っただけ」
「あうとかあわんとか、そんなのいいんだよ~。あたしがどっちも好きなんだからいいんだよ~。あたしは二刀流なの。悪いの~? 悪くないでしょ~?」
友人の目はどろんどろんだ。身体が右回りにゆらゆらぐるぐる揺れている。最近仕事を通じて仲良くなったこの子が、飲むほどに絡み酒になり、酔いが回るほど愚痴が出るタイプだというのは、不幸にして今日知った。
しかも、ここで『二刀流が好き』ときた――これは、今日すでに何度も愚痴られた案件を、また持ち出す気ということだ。
「……えーと、うん。お酒も甘いものも両方好きっていうのも、二刀流って言うらしいよねー、あはは……ところでさ、」
話を変えようと思ったのだけど、彼女は「そうなのよぉ!」と目を上げた。
この反応からすると、私の「ところでさ」は拾っていない。
「そうなのよ、あたしは暑いのも寒いのも大丈夫だしぃ。猫も犬も好きだしぃ。歌って踊れるしぃ。つまり、なんでもにとうりゃうなんたよね」
言い始めた。早口全開、だけど酩酊状態に近いせいか舌が回ってない。私はそーっと目をそらして、自分のカシスオレンジに口をつける。彼女はテーブルに乗り出してしゃべり続けている。
「ほかにもあるろよ。いっぱいあるよ。キノコとタケノコはどっちも好きだしぃ、あさごはんはパンとごはん両方交互だしぃ、ラーメンとカレーはどっちもニホンジンのコクミンショクでいいとおもうしぃ、むかしはリカちゃんと市松人形つかってお人形さんごっこしてたしぃ。なんだって二刀流。両立するのが好きらよよ」
熱燗とアイスクリームがやってくる。彼女はテーブルの端に置かれたそれを自分のもとに引き寄せ、私に見せるように手酌でぐいとやってから、アイスクリームをスプーンでつつき始めた。
「だからさぁ、熱燗とアイスだって両立するのよ。わかる? わかるよね?」
「うん、なるほど……」
「あたしがこういう人ってのもわかってくれたでしょ? だったらさあ、ちょっとくらいあたしのこと応援してくれらっていいんじゃないの。ねえ。二刀流だっていいんだよね?」
「……」
「ねえってばぁ~」
私は無言のまま、熱燗とアイスをともに愛する友人に、なんといおうかと考えていた。
友人よ。確かに、あなたがそういう人だということを力説はしてもらった。
だけど私は、それはあなたの本質でも性格でもないということを知っている。私に後押しをもらいたいがゆえの、言い訳だということを知っている。
「ねえ~、お願いだからさぁ、二刀流でいいって言ってよぉ。何度も言ってるけど、好きな人がふたりできちゃって、どっちも好きで選べないんだってばぁ。両方コクって両方つきあったらだめ~? なんでだめなのかなあ~。いいじゃにゃい、二刀流だって~」
ああもう。
これ、どう答えたら帰してくれるんだろうか。
あたしはこういう人なんです。 岡本紗矢子 @sayako-o
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