小狐の末路
Null
第1話 一つの在り来りな出会い
「……!!」
少年・
運命的なものか、なにかの誘いか、それともただ単に迷ってしまったのか。
時刻は夕暮れ、彼は誰時。
少年は記憶の道筋を辿る。
どうして、この寂れた神社……いや、神社とも呼べない。
不気味で、今にも崩れそうな小屋の目の前で、立っているのか。
■
ガタン、ゴトン
「……んん」
(なんだか、酷く長い夢を見ていた気がする。)
少年は一人、そう思う。
都会を離れ、電車に揺られ、現在これからの居住地である場所へと向かっているのだ。
今日から田舎暮らし、ゆったりと過ごすのだと、少年は呑気に構える。
やがてトンネルを抜けると、壮大な自然が少年を待っていた。
季節は夏。暖かい緑は少年を祝福し、自然はその熱い生命をここぞとばかりに燃やしている。
「これからは、ここで過ごすんだ」
いっその事、昔の事など全て忘れてしまおう!
齢十三、新天地で迎える中学時代だ。
幾らでもやり直しの効く、まだまだ若い世代。
少年の心は、希望に燃えていた。
■
「大変だったねぇ、一人でここまで……」
これから暮らす家の玄関を開けると、祖母が出迎えてくれた。
開口一番少年を労る祖母。
「もう、中学生だし」
なんでもないように振る舞う少年。
「若い頃のじいさんを見ているようだよ」
祖母は、寂しそうに笑う。
……祖父が亡くなったのは、つい先月の事だった。
丁度梅雨の時期の事。
眠ったまま、動かないのだ。起きることは無かった。
仏壇で手を合わせる祖母を見て、少年は少し悲しげな顔をする。
「ちょっと、出かけてくるね」
「どこへ行くの?」
「色んなところ見てみたいんだ」
「早めに帰ってくるんだよ。今日は婆ちゃんが、腕を振るって豪華なご飯を作ってあげるからね」
「楽しみにしてる!いってきます!」
■
不気味な事に、あまりそれ以降記憶は無いが。
ここへ誘ったのは、少年の好奇心であることは間違いないだろう。
(……)
少年は、その古びた小屋にゆっくりと近づく。
夕暮れが、太陽が照らしてくれているのに。
まだ、まだ夜じゃない、月も顔を出していないのに。
暗くもない、むしろ明るいはずなのに、それが、その橙色が小屋を照らすから、怖いのだと少年は悟った。
しかし、好奇心は恐怖に勝ったようだ。
少年は扉の前に立つ。
汗ばむ手で、その戸に触れる。
心臓の鼓動が早くなるのが分かる。
(今なら引き返せる、今なら引き返せる……!)
霊的な物を信じていなければ、こんなもの、直ぐにバッと開ければいいのだ。
しかし少年は違った。信じているのだ。
そしてとても怖い。そう感じている。
それでも。
(この扉の奥に、誘われている気がする)
唾を飲み込み、一気に戸を開けた!
■
……人というのは、予想を大袈裟に立てるもので。
厄介なことに、その予想という名の妄想は、勝手に膨らんでいくのだ。
少年が妄想していたような光景……非現実は、そこにはなく、ただ狭い空間と、汚い畳と、蜘蛛の巣と。
それと、一つの祠のようなもの。
小さな地蔵があるだけだ。
「……なんだ、全然、何も無いじゃないか」
一歩、二歩と歩みを進める。
ふと、何かを踏んだ感触がした。
少年は足元を見る……一枚の札であった。
バッと後ろを振り返る。
おびただしい量の札が、扉に貼られている……!!
「な……に、これ!?」
危うく、口から心臓が飛び出でるところだった。
少年がそう思うほどに、恐怖の感情が少年を支配している。
額から、いや身体中から、嫌な汗が吹き出る。
「……帰ろう」
そこを出ようとした時のことだ。
「何を、しているの?」
「ッ!?」
地蔵の、正に目の前だ。
先程までいなかった者が、声をかける。
それは巫女服のようなものを着た、白髪で、赤い目をしていて……
耳と尻尾を生やした、非現実的な少年。
「……だ、誰!?」
「君こそ、誰?」
その存在は、不思議がってこちらを見る。
「……気がついたら、ここにいて。
それで、ここに小屋があったから……
ぼ、僕は遊……神楽坂 遊っていうんだ」
「遊くん、遊くんね、いい名前だね
僕、イナリっていうんだ。
ずっとここで眠ってたんだ」
ねぇ遊くん。
イナリは遊に近づき、囁く。
そのあかい瞳に、吸い寄せられそうになる。
「お友達になろうよ」
僕の初めての、友達ができた瞬間だった。
小狐の末路 Null @EGGSAN
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