伝説の二刀流剣士・白銀
日和崎よしな(令和の凡夫)
伝説の二刀流剣士・白銀
俺の
剣の実力が物を言うこの国において、剣士としてこの上ない栄誉であり、これ以上の大成はないと言える。
俺は城に迎え入れられ、明日から剣の指南役としての務めを果たすことになる。
将来は安泰だ。
だがやはり、最強の称号こそが何よりもの
「失礼。
俺が腹ごしらえをしようと家を出たところで、小柄な侍が声をかけてきた。
羽織と
「いかにも。俺が
「私は
その名前は耳にしたことがある。
たしか、伝説の二刀流剣士などと呼ばれているのではなかったか。
しかし、目の前のこの小柄な侍からは、そのようなツワモノの気配は感じられない。
それに、得物は右の腰に一本しか
「して、その
「
この男、俺を
よその国では《伝説の二刀流剣士》などとはやし立てられ、
「死にたいのか?」
「死にたい。
なるほど。
自殺志願者というよりは、真剣勝負の中で命を燃やして散りたいという
「よかろう。その申し込み、受けて立とう」
これは、言わば
俺がその望みを叶えてやろうではないか。
俺と
ここは川の流れる音と静かな風のにおいが心地良い。
人気のない場所を選んだつもりだったが、どこで話を聞きつけたのか、多くの野次馬が集まっていた。
「すまないな。
「あなたが良ければ、私は構わない」
そう言って、
こいつ、左利きか? 珍しい。
右手は羽織の下に隠れて見えない。
「さあ、あなたも構えて」
「ああ、失敬……」
俺の刀は黒く美しい
俺は左腰に
俺が構えても
受け流して反撃する技でも使うのか? 俺の重い一刀は片手で受け流せるほどやさしくはないぞ。
「いつでもどうぞ」
何を考えている? 死にたいと言っても、あくまで真剣勝負の中での話なのだろう?
さては技巧派だな?
たとえば、ひたすらに鍛えた左腕の一本で俺の両手でのひと太刀を受けとめ、空いている右手で俺の
「なかなか始まらないな」
「達人同士の
野次馬のいい加減な予想も、あながち間違いではない。
俺は
「そちらから来ないのなら、こちらから参ってもよろしいか?」
俺と違って、
それに、
「そう生き急ぐな。三秒後、同時に動こうではないか」
「それで構わない」
余裕ぶった生意気な態度だ。
それに急かすような言葉を使ってくるところを見るに、
お望みどおり、その命を散らしてやろう。
三。
二。
一。
俺と
俺は二刀流たる
これでさっき考えた可能性は
俺は左手をすぐさま右手の
命をさらけ出す場面を迎え、脳内の時間感覚に変化が生じる。知覚と思考が加速する。
「
この最強の打ち下ろし技は刀で受けられない。
もし受けようものなら、圧倒的な力で刀を押し下げられて体は左右二つに割られることになる。
だから、かわすしかない。
「ふっ」
笑うような吐息とともに。
だが俺の奥義はここで終わらない。
失敗したら隙だらけで返り討ちに合いやすい技を、俺は奥義にはしない。
ここからがこの奥義の極意だ。
「そして
打ち下ろした先で刀を返し、地面を叩いた跳ね返りの勢いを利用して思いっきり斬り上げる。
狙いどおり、
――キンッ!
ということは、本命は右手か。
やはり、こいつは二刀流の使い手だったのだ。
さあ、右手で何をする?
さては
「甘い!」
俺は左手を
そして、
「え?」
なぜか
俺は
「――――」
世界が回る。
空、川、地、人、空、川、地、人……。
ゴトッと音がして、世界が止まった。
目の前で、頭部の消えた俺の体がバタリと倒れ、その
包丁……。
それが
そんな奇抜な二刀流の情報が伝説と一緒に出回っていない理由も、この後すぐに分かった。
腹を切りたいが、それももう叶わない。視界も思考も暗転していく。
伝説の二刀流剣士・白銀 日和崎よしな(令和の凡夫) @ReiwaNoBonpu
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