自分が小学校四年生くらいの時の担任の先生について
高黄森哉
国語
1
自分が創作の中で、蛹に意味を持たせたがるのは、ずばり小学生の時のあるエピソードによる。それは国語の先生の授業なのだが、オチがまるで短編染みていたので紹介しよう。
2
朝、教室に入ると数人が窓際に集合している。窓のでっぱりだったか、ロッカーの上だったかは、記憶があいまいだが、その上に雑誌で作成された蓋の無い箱があって、その中に黒地にオレンジの縞が入る幼虫三匹が蠢いていた。幼虫は怪獣のような棘を二列、背中に生やしている。登校中によく見かける幼虫。こんな見た目なのに、毒がないことを自分は知っていた。
最初は、クラスメイトが飼うことにしたのだな、と勘違いしていたのだが、その誤解が融けたのは朝の回のことで、先生がこの幼虫を買うことを宣言した。全員が絶句していた記憶があるが、本当にそうだったかは定かでない。
3
幼虫は順調に育った。
毎日のように先生は葉っぱを入れ替え、霧吹きで保湿したからだ。だいたい人差し指位の大きさである。その頃にはクラスの人気者となっていた。そんな幼虫の、スケッチをさせられた覚えがあるのだが、どういった経緯だったかはすっかり忘れてしまった。そして終齢幼虫になり、もうすぐ蛹になろうかという、あくる日の夕方事件が起きた。
ついに蛹になったのである。
というと語弊があるだろう。違うのだ。幼虫が蛹になったのではなく、寄生バチの一種が体表を突き破って蛹になったのだ。今も考えただけでぞわぞわするおぞましさだった。幼虫の表面に無数のふちが茶色く変色した小さな穴が開いており、体表には幾千の粒がくっついている。それは、すべて寄生バチの蛹なのである。後日、二匹目も同じくやられてしまった。
4
最後の一匹は大丈夫だった。ちゃんと蛹になってくれた。そして遂に、先生が、いったいどうしてこの幼虫を育てて我々に見せたのか判明することとなる。箱をのぞき込むと、その蛹の背中の棘の一部が金属の光沢をもって輝いていたのだ。完全な金色だった。醜い幼虫は、金色の蛹になったのだ!
だから何だという話だが。
自分はこの時点では、あまり感動してなかったと思う。まず一つ目に、そもそも幼虫が派手な色をしていたこと。黒地にオレンジの警戒色は地味でなく、虫が好きだったので、そういった色を、グロデスクだと考える感性を持ち合わせていなかったのだ。あともう一つ、金色の部分が少なかった。割合にして、一もなかったと思う。棘以外は、枯れ葉色をしていた。
それでも子供の自分は、なんとか、その寓話性を飲み込もうとしていた。先生の言いたいことは理解できたし、クラスメイトと感動を共有したかったからだ。
5
この話には、ひどい続きがある。この蛹、羽化すると、なんと蛾になってしまうのだ。つまり醜い幼虫が蛹になって華を咲かせる、という寓話的完全変態は、第二の進化により叩き潰されることとなった。それはそれで、そこに皮肉があって面白いな、と感じた。
この蛾は、ツマグロヒョウモンと呼ばれている。写真で調べてみると、記憶ほど悪い見た目をしてはいない。むしろ、綺麗な蛾だと自分は思うが、他人がどう思うか知らない。写真写りはいい。……………… 写真写りは、。
6
さて、もうすぐ、
自分が小学校四年生くらいの時の担任の先生について 高黄森哉 @kamikawa2001
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