【KAC20221】わたしは二刀流ですから

竹神チエ

第1話 600字の壁を超えるため

 500リワードが欲しかったんです。


 そういったのはT子さんでした。彼女は切実でした。リワードのことを考えると、そわそわして過食に走るんです、そう真剣に語るのでした。


 たった500だと思う人もいるでしょう。でもT子さんにとって500リワードはとても大きな数字だったのです。


 でもわたし、そんなにすぐ物語なんて書けませんよ。T子さんは訴えます。


 そりゃあね、今年は600字からでよくなったんです。それだったらなんとかなるかしら、なんて思うでしょう? でも600字って結構あるんですよ。かといって600字ほどほどで終わる物語ってあります? あったとして、わたしに書けると思いますか。


 T子さんは怒りだしました。逆切れです。


 T子さんは、ふわふわ意味のないものならたくさん書けると言い張ります。でも周りを見てごらんなさい、そう悲しそうにするのです。誰もふわふわしたものは書いていないじゃない、しっかり物語ものがたりしてるじゃない、と。


 恥ですよ。T子さんはいいました。

 あほなこと書いて参加したら、恥をかきますよ。


 T子さんだって恥じらいくらいあるのです。でもどうでしょう。いまさらな感もあります。誰もT子さんが傑作を書くなんて期待してませんから。


 とにかくリワードが欲しかったんです。T子さんは言い訳します。しつこいくらいです。でもね、とわたしはいいました。T子さん、この祝祭は書いたもん勝ちなんですよ、って。


 だって、参加しただけでリワードが、いいですか、1回目2回目に参加しただけで、500リワードが手に入るんですよ。皆勤賞なら300リワードがつくんです。もしかしたら、タオルか液晶画面クリーナーが当る可能性があるんですよ。欲しくないんですかっっ。


 ……そうですね。T子さんは遠い目をしました。


 吹っ切れたのでしょう。ですから、文字数をごらんなさい、とわたしはT子さんにいいました。そこには約790文字とありました。


 あらもうそんなに書いてたんですね。T子さんは喜びました。


 ですが、すぐに気づいてしまいました。お題があることに。


 まったくお題にそった内容ではない、と焦っています。でも心配はいらないのですよ。わたしはそう安心させました。


 なぜならこのサイトでカク(文章を投稿)したり、ヨム(投稿作品を読む)をしているあなたは、立派な二刀流なのですから、って。


 T子さんはそうですよね、と何度もうなずいていたのでした。

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