全員殺された

 その人物からコンタクトがあったのは数日前だった。辰雄のサプライズムービーを作るのを手伝って欲しいと知らない連絡先から電話が来た。謝礼という形で、それなりの金銭の提供もあった。スケジュールは細かく指定され、この日にこの連絡をし、そしてその時間にドアを開け、そのままにし、そのまま去って欲しいとのことだった。それ以降は何も知らない。


 ここから先はテレビで知ったことだが、別の人物もサプライズの演出を手伝ってほしいと言われ、渡された銃を撃ってくれと言われた。銃は偽物だし、出てくる血のようなものは全て血のりだ、と言われた。何度もリハーサルを繰り返し、当日を迎えた。渡された銃は本物だった。


 犯人は闇市重久。辰雄に深い恨みを持つ人物だった。以前の会社で辰雄はいわゆる首切り担当をしており、闇市も辰雄に首を切られた一人だった。

 あれほど命をかけて尽くしてきた会社に裏切られるとは。怒りの矛先は辰雄だった。あの大きな岩のようなシルエットを粉々に潰してやる。そう思い、長い年月をかけて、この計画を練った。家に盗聴器を仕掛け、毎日の行動パターンを記録し、あらゆる方法を画策し、実行に移した。


 逮捕された闇市の頬はこけていたが、表情は明るかった。


 今私は警察署で取り調べを受けている。

 私は犯罪者だろうか。

 まさかこんなことになるとは思わなかった。私には罪はない。

 撃った人物は犯罪者だろうか。全く知らなかったわけだし、むしろ被害者だろう。


 本当だろうか。

 全てのものは多かれ少なかれ、何らかの形で繋がっている。完全に無関係なものなど存在しない。

 途中で怪しいと思って事実を確認することだってできたかもしれない、やっぱりできないということだってできたはずだ。でも私はそれをしなかった。


 同様に今どこかの国がどこかに侵攻しているかもしれない。それは遠い遠い国のことで、今自分が何かしようとも、しなかったとしても何も変わらないのかもしれないが、我々のしたこと、いやしなかったことが何らかの形で伝わり、いずれ大きな影響を及ぼすこともあるんじゃないか。


 答えはわからない。

 何もできないのかもしれない、でもしたいという思い、祈りはきっと届くと信じている。今私にできることはこれくらいだ。

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短編集「川に流される人たち」 木沢 真流 @k1sh

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