真・巻き込まれ召喚。 収納士って最強じゃね!? アスカ二刀流道場

山口遊子

第1話 アスカ二刀流道場

[まえがき]

『KAC2022 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2022~』用に書きました。一応短編です。

◇◇◇◇◇◇◇



 居間でお茶を飲みながら暇にしていたら、俺が収納して預かっているブラックブレード2本と剣帯を出してくれとアスカから言われた。


「ブラックブレードなんて珍しいものをどうするんだ?」


 そう言いながら、鞘に入った『ブラックブレード+3』と少し短い『ブラックブレード+2 EX』、それに剣帯をアスカに渡してやった。


「マスターが暇そうにしているので、二刀流の道場を開こうかと思いました」


 アスカは渡された剣帯に2本の剣を取り付けてスカートの上から腰に巻いた。2本の刀はお尻の上の方でクロスしている。


「あのなあ、俺は立派な棒使いなの。二刀流なんて棒術にはないだろ?」


「マスターは、私の助手をしてくれれば十分です」


「俺にとばっちりがないなら助手ぐらい引き受けるけど、アスカが先生で俺がアスカの助手というところが何か引っかかるな」


「気にしないでください」


「それで、生徒はどうするんだ?」


「対象は近所の子どもたちを考えています」


「ふーん」


 アスカはそう言って帯剣したまま居間を出ていき、そのまま玄関から外に出ていったようだ。生徒募集にでも行ったのか?





 そして、翌日午前9時。


 屋敷うちの近くに住む子どもたち10人ほどが屋敷の南側の草原くさはらに集合した。子どもたちの年齢は6歳くらいから10歳くらいと思う。半分は女の子だ。


 子どもたち用に厚手の布を巻いた木刀というか木の棒をアスカが昨日のうちに用意していたようだ。アスカは剣帯に2本のブラックブレードを差している。あれは攻撃力アップの他に相手に恐怖を与えるという特殊効果がついているので、子どもたちの前ではまさか抜かないだろう。要は二刀流道場の道場主としてのカッコつけのつもりだと思う。


 俺も一応助手なのでアスカ先生の指導を見守っている。なぜか俺も『神撃の八角棒』を持たされている。みんな布を巻いた木刀とはいえ刀なのに俺だけ間合いが大きい棒を持っているのがちょっと気にかかるが、俺が勝手にそう思うだけで、少年少女たちは何も思ってはいないだろう。多分。


 二刀流道場などといっていたが、最初から二刀流など無理なので、木刀を各自持っての素振りが主な稽古内容だ。


「二刀流を教える前に、まずは両手で正確に刀がふれるように訓練していきます。

 それじゃあ、先生・・のマネをして、このように両手で木刀を持って、こう構える。そしてまっすぐ振り下ろす。振り下ろすときに息を止めずしっかり声を出すこと。エイ!」


「「エイ!」」


 ……。


 それから休憩をはさみつつ30分ほど生徒たちは木刀の素振りを続けた。


「よーし、みんなよくなってきた。それじゃあ、長めの休憩だ。みんなが休憩しているあいだ、先生・・が二刀流の凄さを見せてやろう」


「「わーい!」」草原くさはらに腰を下ろして休憩中の生徒たちが手を叩いて喜んでいる。


 アスカはそこで腰の2本のブラックブレードを抜き放った。相手に恐怖を与えるブラックブレードだが、子どもたちが相手というわけではないようで、誰も怖がっていない。


 そこでアスカが2本のブラックブレードを使って演武のようなものを披露した。動きは速かったが目で追えないほどではなかったので、子どもたちにもちゃんと動きが見えたハズだ。


「二刀流を極めていけばこのようなことも簡単にできるようになる」


 そこで子どもたちから拍手が起こった。


「「先生すごーい!」」


「そうだろう。そうだろう。なにか他に先生にやってもらいたいことはあるかな?」


「男の先生と試合してもらいたーい!」


 一番小さな女の子がそんなことを言い出した。そうしたら、残った子どもたちも一斉に、


「「試合が見たーい!」」と合唱を始めた。


 その声を聞いたアスカの顔が確かにニヤリとした。俺は見たぞ! 俺は壮大なアスカの罠にはまってしまったようだ。



「それではマスター、生徒たちの熱い要望に応えて3本勝負としましょう。3本先取した方が勝ちです」


「アスカ、それって3本勝負じゃなくて5本勝負って言わないか?」


「私の二刀流道場での3本勝負とは、どちらかが3本取るまでという意味です」


 罠にはまった以上どうしようもない。しぶしぶ俺は八角棒を構える。


「私は攻め込みませんから、どこからでもどうぞ」


 相変わらずの上から目線だが、実力差というのもおこがましい技量差があるのは確かなので、そこは目をつむろう。


「行くぞ」


 俺が両手で・・・構えた八角棒をアスカに向かって打ち付けるとアスカは軽く左手のブラックブレード+2で受け、空いた右手のブラックブレード+3で俺の額をこつんと叩いた。もちろん手加減されているのだがそれが結構痛い。


「一本!」


 これってどうなの? アスカは片手で俺の両手の全力を受けて、空いた片手で俺の好きなところを攻撃できるわけで。今までも勝負になったためしはないが、今まで以上に勝負にならない。


 後はお察しの展開だ。都合3度アスカのブラックブレードで軽く叩かれた。


 子どもたちは、俺が痛い思いをするたびに手を叩いてアスカに声援を送る。これが傷口に塩を塗るということなのかと実感してしまった。


 休憩も終わり、子どもたちが素振りを再開してアスカの二刀流道場は昼までで終了した。


「「先生ありがとうございました」」と声を揃えて子どもたちは帰っていった。


 その後ろ姿に向かってアスカが「明日も9時からだからな」そう言ったら、振り返った生徒たちが、そろって「「はーい!」」と、元気いっぱい返事をした。


「マスター、そういうことですから、明日もよろしくお願いします」とアスカから無表情のくせに嬉しそうに言われてしまった。



 その日、俺は早々と風呂に入った。アスカに軽く叩かれたところは何ともなかったが、久しぶりに八角棒を握ったせいか手首は痛いし、筋肉が必要以上に緊張していたのか、疲れが溜まった感じだ。


 湯舟の中で体を伸ばしてゆっくりしていたら、隣の女風呂に人が入ってきた。この時間に風呂に入るのはアスカだろう。


 案の定アスカが女風呂から俺に向かって、


『マスター、体がかなりなまってましたね。あしたも生徒たちのために・・・・・・・・、摸擬試合をしますから頑張ってください。いやー、体を動かした後のお風呂は気持ちいいですね』


「そうかよ。それは良かったな」




[あとがき]

二刀流の必然性は全くありませんでしたが、ちょっとだけでも出てきたのでセーフ。

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真・巻き込まれ召喚。 収納士って最強じゃね!? アスカ二刀流道場 山口遊子 @wahaha7

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