同じだけど違う二人の話

 屋上の扉を開くと、フェンスの外側に立っている少年がいた。

「ちょっと、何やってんの!」

 少年を屋上のフェンスの中に引き戻す。

「なに、死ぬつもり? やるなら学校以外でやってくれよ」

 少年はぼんやりした面持ちで答えた。

「いや、死ぬつもりでは、ない」

「じゃあ、なんであんなとこにいたんだよ」

「空を……」

「空を?」


「空を、飛べるんじゃないかって思ったんだ」



 僕は高校に入学してから、友人作りというものに失敗した。

 休み時間に時間をつぶす場所がなくて屋上に向かった矢先での出来事だった。

 彼は不思議な雰囲気を持つ奴だった。初めてあった気がしなかった。まるでずっと昔から知っていたかのような、そんな気さえしてくる。とにもかくにも、彼とは波長が合うのか、たとえ沈黙が走ってもちっとも気まずくならなかった。

 彼の名前はショウといった。漢字で翔と書く。僕の名前も同じ漢字で翔と書き、カケルと読む。

 思いがけない共通点を切り口に僕たちはいろいろな話をした。

 僕らは一気に仲良くなった。休み時間はいつもともに過ごすようになった。



「ショウ、何しているんだ」

「ああ、カケル。空を見ているんだよ。今夜は流星群が来るから」

「よく見えそうか」

「うん」

 ショウは屋上にいるときはいつも空を眺めていた。フェンスの外側に出るのは初日以来していない。

 二人で並んで空を眺めると、何やらデジャヴのようなものを感じるようになった。

 ここではないどこか別の場所でショウと……いや、誰かと似たような空を眺めたような気がする。

 一人で空を眺めているショウは空に攫われてしまいそうでなんとなく不安になる。

「なあ、ショウ」

「ん」

「僕たち、前にも似たようなことなかったか」

「……毎日一緒に似たようなことしているじゃないか」

「いや、そーいうんじゃなくて……」

「もしかして、自分が自分になる前……みたいな話」

「うーん、たぶんそう、なのかな」

 ははっと珍しく声をあげて笑いショウは言った。


「だとしたら僕たちはずっと昔から親友になることが決まっていたのかもね」

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契り 日景の餅小豆 @hikage-1103

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