第9話 廃都の調査
学園へと入学を果たした私、マリーは現在 荷馬車に揺られとある地に向かっている。
夏も終わり頬を撫でる風が少し冷たく感じる頃合い。
「マリーだっけ?久しぶりだね。元気そうで何よりだよ」
「はい。まさか同じ御者で知ってる人に会えるとは、思いもよりませんでした」
話しかけてくれたのは、私が王都スーリヤに来る時に同じ御者にいた方だった。
こんな偶然あるんだね。
荷馬車に揺られ早2日。目的地までは後どのくらいだろうか。
ともかく、一体何故私が折角入学した国立セレスティア魔術学園の特別塔を離れているのかと言うと......
⚪︎⚪︎⚪︎
遡る事数日前......
「さ、みんな!前から言ってた廃都の調査だ。準備してきな」
特別塔の一室に集められた私達を前に、特別塔ことアークミィの教師であるリゼット・キールさんが元気良く指示を出した。
比較的整理された部屋には、カインドさんとミラさんが椅子に座り、その後ろに私とディステットさんが立っている。対面にルーファスさんとテュアルさん、その横にスノリヤさんが席に着いている。
因みに学園に入学したのは20日前。あれからカインドさん達が進めている研究以外の雑事をディステッドさん監修の元おこない、図書室と特別塔を往復する生活を行なっていた。
それで、なんでしたっけ?調査?
「?、キールさん。なんの事でしょう」
「あぁ、スノリヤとそれからマリーは知らなかったね。カインドとミラの研究の為に前々から悪魔の発生地へ行く話があったのよ」
カインドさんが手を上げ、リゼットさんの話を区切る。
「そこからは私が。僕とミラの研究課題は【悪魔】についてなんだ」
それから、カインドさんは静かに悪魔について語り始めた。
悪魔とは。動物や魔物の別称では無く、人間の感情に共感し肉体から魂までその全てを代価に望みを叶える事象の事だと語られた。
主に悪感情。劣等感や失意、他者に対する恨みに共感し、増幅させ主となる己が姿を異形に変え比類無き力を与えると。
悪魔自体の実態が無いという事なら、悪魔は精霊に近い存在なのかと思ったけど、これは違うらしい。
精霊とは人間が文化を築く前からこの世界に住まい、今の人々では存在を確認する事が出来ない神々。その神に連なるモノだと考えられている。
よって人に由来する悪魔と、神に連なるとされる精霊では根本が違う。
故に、実体の無く人そのものに在る狂気。タガが外れた化け物。『悪辣な魔精霊』つまり悪魔と称している。
ここ数十年程、目撃頻度が増えており何かが起こる前触れなのでは無いかと、悪魔について調べている学者は増加しているらしい。
「実際には西の別大陸にいる魔王の手先だとか、死霊の類いだとか、いろんな説があるんだけどね。僕は自身の体験や研究を含めて今言った説を推しいるよ」
「そう。つまり調査の内容は、悪魔が発生した原因の究明および対処だ。大役だ張り切ってくれたまえ」
「......騎士団ですら命を落とす様な仕事です。子供である私達で対処が出来るとは思えません」
「ははっ、そうだね。その愚痴は後で私に志願したカインドに言ってくれ。巻き添えを食った君達は運の無い」
えっと確かリゼットさんは、王国魔術兵団特別講師に就いていたはず。この国では各領地で違いはあれど、騎士団と魔術兵団は犬猿の仲と聞く。
騎士団が起こした今回の失態に魔術兵団が横槍を入れたのだろうか。
こわ。
「廃都へ向かう面子はカインド、ミラ、ディステッド、マリー。そらからスノリヤだ。ルーファスとデュアルは待機。私は別件の仕事がある。それが終われば廃都へ向かうよ」
「あの!ですから、なんで私まで行く事になっているんですか。命を懸ける事なんてどう考えても可笑しいでしょ」
「ん、まぁ。そりゃそうだ。君達がしているのは子供の研究だ。特別塔と名が付いてはいるけどわ持てる権限なんて学園の域を出ない。あと数年もすれば皆んな自領に戻って別の生活が待っている。ここで命を張る必要は無い」
「......だったら」
「でもね。此処でしか出来ない。此処だから無茶が出来る事もある。ミルシア王国からアルカディア王国に逃げた様に、無くした記憶をあてもなく探す様に、悪魔に一途の希望を抱く様な馬鹿もいる」
「......」
「特別塔に入れた連中は皆、此処じゃ無いと叶えられない願いを持っている。私はただそれを応援しているだけさ」
「よしっ、それじゃあ今回は此処の先生らしく理由を与えよう。スノリヤ。君が王族という立場に嫌気がさし、この国に半ば亡命の様に来たのは知っている。だけど、まだ足りない。ミルシアの国王から帰ってこいと言われれば、君は従わないといけない」
「そこで必要なのは、この国における立場と実績、信頼だ。立場は私が保証しよう。実績と信頼は卒業までに築けば良い。この国に残ってる謎は何も廃都の悪魔騒ぎだけじゃない。君の人生だ。私は君を尊重する」
「......無責任な人ですね。でも、わかりました。今回の廃都調査、私自身のために同行します。皆さん。余計な時間を使わせてしまい申し訳ありません」
スノリヤさんが私達を見渡して頭を下げた。
私も決して他人事では無い。まだ何も成果は無いけど、私の過去を知る為にも出来る事はしないといけない。
⚪︎⚪︎⚪︎
と、言うわけで私達は今、廃都フラリッシュへと向かっていた。
「確かフラリッシュは、聖王国に近くに建てられているんでしたっけ」
「そうだね。フラリッシュ自体は現在、大陸にある四国以前から存在すると言われているね」
「現王族がそこから今の王都スーリヤに移ったのは大体200年前らしいけど」
「えっと、確か災厄が街を襲ったんですよね。当時の名の有る魔術師や騎士が討たれ、それでも尚、災厄は健在。結果として撤退を迫られた。歴史書にはそう書いていました」
「そして、今はアルカディア王国の中で悪魔が最も多く出る場所になっている。っと、そろそろ着きそうだよ」
対面に座って景色を眺めていたミラさんも話に加わった。
カインドさんの声につられ外を見ると一軒家が散見される村が見えてきた。遠目に薄く見えるのが城だろうか。
⭐︎⭐︎⭐︎
https://kakuyomu.jp/works/16817139558500626379
こちら外伝のお話になります。
ここで出てくるフルーク聖王国もいずれ本編に出したいですね。
応援やコメント、誤字脱字の指摘があれば私が泣いて喜びます。
精霊術師の奇譚史 私は一体誰なんでしょうか 久瑠璃まわる @saito0915
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。精霊術師の奇譚史 私は一体誰なんでしょうかの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
独り言/久瑠璃まわる
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます