スノリヤ視点 余裕な筈の試験

 私の名前はスノリヤ・フォン・ミルシア。ガーダス大陸の北部に位置するミルシア王国の第四王女。私には兄が2人、姉が3人居る為王位の継承権は薄く、他領や他国に嫁ぐ為に育てられてきた。

 そもそも、私が産まれまだ読み書きを覚えていた頃に継承争いは決したと当時聞いた覚えがある。


「ここまでで良いわ。後は私1人で行くから」

「スノリヤ様、お1人でも大丈夫ですか?今日は試験本番です。体調に少しでも変化が御座いましたら無理のなさらない様に、早急に......」


 今回の無理を言って通してもらった留学に同行してくれたのは、私が6歳になった時に専属侍女として紹介されたのがロジーナだった。少し面倒見が良すぎる時があるけど、国内外で味方の少ない私にとって、とても心強い友達だ。


「もうっ、大丈夫だから。倒れる前にやめるわ。それじゃ、ロジーナ。行ってくる」


 本来、1年前に留学するはずだった私は自身の体調不良で半年寝込んだ。その後、安静をとって留学の予定が見送られ、ついに1年後にまで伸びてしまった。

 余り遠出はしたく無かったけど、自領内で出来る事が無くなったから仕方ない。あのセレスティア魔術学園に行ける環境があるのだから、使わない手は無い。




「本日試験を受けるスノリヤです」

「ふふっ、時間通りね。それじゃ案内するわ」


 そうして案内されたのは女の子が1人座っているだけの部屋だった。


「初めまして。スノリヤと言います」


 ......背が私より低い。歳下?格好がそれ程凝ってないし、平民?誰かの侍女?それに黒髪?

 どちらにせよ、試験を受けるだけだし関係ないか。


「かわっ......いえ、すみません。マリーです」


 ?......初対面で何言ってるのこの人。


 え?なんでこっちを見てくるの?ん〜、白髪が珍しい?。別に良いや。今は試験。


 試験に対する勉強は行くと決めた2年前から行なっている。元から何か知らない事を覚える事は好きだったし、趣味の魔術研究が進む事に期待してとても楽しかった。




「2人とも優秀ねぇ、それじゃこれは他の職員に採点して貰うから貴女達は実技をしましょうか。休憩時間はあるからね、通しだと疲れるよね」


 筆記が終わり、試験官の指示により実技を行う事になった。虚弱ではあるけど暇がある度、国内にある文献を読み返し魔術を極めてきた。

 試験では魔力壁の展開の有無を確認するはずなので何もは問題無い。

 物足りなくはあるけど。


「それじゃ、説明するわね。本当なら魔力壁を使えるかの確認なんだけど、2人とも魔術が使えるって聞いたよ。それだったら試合形式で見てみようって事なの」


 試合形式?え?死会う?......私は良いけどその子は大丈夫?


「......試験内容が他学生と違うのは公平では無いのでは?」

「ふふっ、本来は魔力壁が使えればそれで良いのよ。アークミィではそれなりに実戦があるから慣れておかなきゃ」

「......まるで受かっている事が確定している。みたいな言い方ですね。試験官が言うのであれば私は問題ありません。そちらの方は?」

「私ですか!?はい!大丈夫です」


 明らかに大丈夫じゃ無いでしょ。

 けど、不完全燃焼のまま帰るのも嫌だし、どうせだったら勝ちにいきたい。




 攻守を籤で決め、マリーと名乗った人と距離を取る。......少し遠い。

 私が行使できる魔術は水。体術も教わっているけど、兄姉と比べると得意とは言い難い。

 交戦距離が伸びるほど相手に魔術を当てる難易度が上がり、時間制限のある防衛側が有利になる。

 どう近付こうかな。


「よし!それじゃ始めるねぇ。......開始っ!

「神が与えし恩恵よ、貫く力となり現出せよ」


 本来の口上から、だいぶズレた私の魔術。詠唱を短縮する代わりに魔力の消費が極端に増えてしまう。主に短期で仕留めたい時に使用している。

 ......え、魔力壁の展開が間に合うの?発動から着弾まで、ほんとに一瞬しか無いはずだ。兵団に所属する人ならいざ知らず、こんな女の子が間に合うはずが無い。


「まだです」


 少し面倒だけど数を増やして、それでも間に合うのなら威力を上げる。


「開幕っ!から!飛ばしすぎじゃない!?」


 多少なら動けても私が長時間動くと息が上がり動けなくなる。私は短期決戦しか出来ない。

 相手を囲む様に放っても魔力壁のみで処理されてある。相手の足元はだいぶ濡れており、なんとか目標を達した。

 魔力壁で防いで居るけどそれ以上に反撃は無い。処理だけで手一杯?

 それなら、近付くなら今っ!


「汝我の想いに応え、その水気を抜き取り賜えっ!」


 当たったら「直で魔術を受ける」で私の勝ち。当たらなくても相手の手足を濡れた地につける為の飛び蹴り。

 結果は後者。最善じゃ無いけどこれで整った。


「......速さは魔術を使ってないニアに近いかも」

「今ので仕留められませんでしたか。悪運な気もしますけど、それでも時間内に終わらせます」


 ニアは誰か知らないけど、気付かれる前に終わらせたい。


「汝我の想いに応え、槍と成りて飛来せよ」


 小声で水溜りを形成していた一部を回収。

 コレで当たれば勝てたがそんな事はなく手元に戻ってきた。

 流石に警戒されたか、先程より私を見る目が鋭くなる。


「まだです。我は水徒、清白たる水神よ、我が願いに応え、汝が其の力、神の御魂を与え賜え」


 古い文献を漁っている時に着想を得た魔術。効果は騎士の使う身体強化に近いかもしれない。消費する魔力は莫大で、出し渋っていた私の魔力もほぼ底をついた。


「行きなさい」


 文献の劣化とは言え神の御技を借りている。私の気力が保つ限り魔力の精度が極限以上まで上がり魔力を消費しなくなる。


「っ!」


 魔力壁を貫く為に一点に水球を集め、それを数多に生成し発射。

 相手の足元にある水溜りには、削れた箇所を重点的に狙う事に使用する。

 乾いた空気より湿った方が威力を上げり断然やり易い。


 っ!......あの子の魔力量どれだけいるのよ。

 短期で尚且つ攻め側の試合を行うならば、これ以上の手は持ち合わせていない。

 だが多少削れる物の魔力壁を壊す致命打に至ってはいない。

 後少しっ!


「っ!」

「くっ!」


「はーい。そこまでよ」


「はぁ、はぁっ」


 息を吸う度に、喉から風邪を通す音が鳴る。

 魔力量、魔力壁の展開の速さ。展開に合わせて動ける身体能力。ふぅ、まさかあれほどとはね。


 動かせない体を無理矢理動かして試験官の方へ向かう。

 あぁ、後でロジーナにら怒られるわね

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