いつもより激しく

 龍一と静奈にとって、旅行というのは楽しむことが前提だ。

 とはいえお互いに大切と思える存在が傍に居るからこそ、自分が楽しむことよりも相手のことを優先してしまう。


「静奈、何かしたいことはないか?」

「龍一君、何かしたいことはない?」


 これはある意味、二人とも似た者同士なのだろうか……?

 ほぼ同時にそう聞いたことで二人とも呆気に取られたように目を丸くし、次に肩を震わせて笑い合った。


「もう、これじゃあ何も出来ないじゃないの」

「そうだな。つうか、俺としてはこんなやり取りも嫌じゃねえぜ? 何よりお前とだから」

「……龍一君♪」


 龍一も龍一で静奈にはとことん甘いが、静奈に関してはそんな龍一の優しさに触れるだけでこうもすぐに女としての顔になってしまう。

 それは静奈が龍一のことを強く想うからこそ、好きすぎるからこそ……そしてある意味龍一の女として隅から隅まで仕立て上げられたのもあるだろうか――もちろんそれは無理やりではなく、静奈自ら望んだ形なのでこれが彼らにとっての幸せの形なのも間違いではない。


「のんびり観光でもするか。せっかくの旅行だ」

「分かったわ……あ、あれは何かしら?」


 そんなこんなで、龍一と静奈は旅行を心から楽しむため、互いに寄り添いながら行動を開始するのだった。


▽▼


 日中は観光に時間を費やした結果、思いの外二人ともクタクタになったようだ。

 混浴は既に予約で埋まっており残念な思いをしたものの、ここまで疲れてしまっては逆に混浴でなかった方が良かったかもしれない。

 それぞれ分かれて大浴場で入浴を済ませ、その後は地元の幸をふんだんに使った料理に舌鼓を打つ。


「美味いな」

「えぇ、凄く美味しいわ」


 静奈がスマホで料理の写真を撮り、おそらく咲枝や千沙たちに送ったんだろう。

 自慢してやると少しだけ意気込んでいる様子も見えるが、それ以上にみんながこの場に居ればと寂しがっている様子も垣間見せており、そんな静奈の姿が龍一には愛おしくて仕方なかった。


(……抱きてえ)


 だからなのか、男の本能が静奈の体を求めてしまう。

 これまでに何度も静奈と体を重ねてきたが、やはり雰囲気の違いは龍一の心さえも刺激してしまうらしく、いつになく龍一は熱い眼差しを静奈に向けていた。

 夕飯を終え、食器等も全て片付けられた後……二つ並んだ敷布団の上で龍一と静奈は抱き合いながら激しいキスを交わしている。


「ちょっと驚いたわ。いきなり激しいんだもの」

「すまねえな。今日はいつも以上に昂ってるかもしれん」


 龍一の顔付きは正に野生の獣を思わせた。

 常人からすれば……それこそ、そんな眼光に見つめられたら怖いと感じてしまうのも仕方ないはず……だが静奈は一切の恐怖を持たないどころか、これから何をされてしまうのだろうという期待感が見え隠れしている。

 潤んだ瞳にハートマークが浮かんでいるかのように、ただただ静奈は龍一を見つめ続け……そしてまさかの煽りをした。


「何をするの? 最近の龍一君は優しすぎて激しいことはご無沙汰よね……期待して良いのかしら?」

「……へぇ」


 龍一からしても静奈の言葉が煽りだというのは分かっている。

 舌なめずりをした龍一は片手を静奈の胸に、もう片方の手は下半身へ……両方に触れた龍一はニヤリと笑い、静奈に問いかける。


「キスをしたからじゃねえ……これは随分前からだな? なあ静奈、お前も随分と変態になったもんだ」

「っ……あなたがそうさせたのよ! 私をこんなドスケベにしたのはあなただわ!」

「くくっ、違いない。だがそんな静奈も愛してるぜ」

「……だからいつもズルいのよあなたは……あなたから優しい言葉をもらう度に私、嬉しくなっちゃうんだから」


 顔を赤くしてそう言った静奈のなんといじらしいことか、そこで龍一は久しぶりにタガを外すことにした。

 まあ静奈の本質がかなりのマゾということもあってのことだ。


「今日は少しだけ張り切るぜ静奈――壊れるなよ」

「……龍一君の前でならいくらでも壊れてあげるわ……来て♡」


 そうして、二人は強く体を重ねるに至った。

 それからある程度の時間が経った後、龍一は水分補給をするかのようにオレンジジュースを飲んでいた。


「ぷはぁ!」


 冷たさが体全体に染み渡り、火照った体を冷ましてくれる。

 龍一が視線を向ける先では静奈がだらしのない表情で横になっており、時折体をビクッと震わせているのを見て……少しやり過ぎたかと反省した。


「りゅう……いちくぅん……♪♪」


 とはいえ、幸せそうにしているから良いかと龍一は笑った。

 さて、なんだかんだ旅行初日の最後は彼ららしい終わりとなったが……それでも龍一も静奈もとにかく幸せだったのは言うまでもない。

 色々なことがあって乗り越えた先に手に入れた幸せな瞬間……獅子のように鋭い目を持つ龍一も、今だけは優しく柔らかな眼差しをしている。


「俺、丸くなっちまった……か? ま、今更か」


 だとするならば、自分を変えたのは間違いなく静奈を含めた彼女たちだろう。

 ただまあ、優しくはなったが獰猛な部分と悪戯好きな部分は残っている――龍一は静奈の元に近付き、舌を出したままの静奈を写真に収めた。


「なに……しへるの……?」


 それはもちろん、可愛い静奈の姿を写真に収めたんだと龍一は苦笑した。

 翌日、それを見せて静奈に大層怒られたのもまた仕方のないことだった。




【あとがき】


お久しぶりです。

こうして更新したのは意味があって、お知らせの意味も込めていました。


大分前になりますが、コミカライズのことをお知らせしました。

いよいよ明日の4月6日より、“ガンガンONLINE”にて配信されることになっております。


題名も漫画版に合わせて変わっており【寝取られ漫画のクズ男に転生したはずがヒロインが寄ってくる件】になっています。

タイトルは変わりましたが内容は変わっていないのでご安心を。

というか、絵になったことでかなり凄いと言いますか……序盤からかなりドキドキするシーンが絵になっててかなり良いです!


もしよろしければ、明日の空いた時間にでもガンガンONLINEのアプリから探してみてください!

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【コミカライズ開始】漫画に登場する最悪の男に生まれ変わったはずがヒロインが寄ってくる件 みょん @tsukasa1992

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